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燐寸4 ページ5




寝返りを打った先で何かにぶつかった。

その正体を知っているから、眠りへと誘う心地よい微睡みを手放す。

射し込む陽光に眉を潜めると、上から彼の声が降ってきた。

「相変わらずの寝坊助だね」

「…おはようの挨拶も言えないのか」

ベッドに腰掛けて人の眠りを妨げておいて、彼に反省の色は無い。

それどころか鼻で笑って、嫌そうに顔をしかめている。

年相応に子供っぽい。

「眠れないからって八つ当たりしないで呉れる」

彼が来たのならもう二度寝は出来ない。

逆方向に寝返りを打ち、体を起こす。

私は基本的に出掛ける直前に着替えるタイプだ。

森さんチョイスのフリルのパジャマではなく、長袖長ズボンで完全防備、機能性重視のパジャマのまま寝室を出る。

後ろから色気がどうとか何か文句が聞こえてくるのもいつもの事だ。

「それで何の用」

まさか本当に八つ当たりで来た訳ではあるまい。

お気に入りのカップを取り出して紅茶を淹れる準備を始めると、彼も隣に立ち勝手にカップを取り出して並べる。

色違いで買ったカップはどちらもお気に入りだったのに、すっかり片方は彼の物となっている。

「今日は森さんに呼ばれてるだろう。だから僕が起こしに来てやったんだよ」

「呼ばれてるのは証人である貴方だけでしょう」

私よりも背が高い彼を見上げた。

彼も私を見下ろしていて、初対面のあの日のように目が合う。

太宰治、自 殺未遂で森さんの元へ運ばれて来たが故にマフィアの闇に触れた者。

先代首領の"病死"を看取り、次期首領を森鴎外が継ぐことを証言する者。

深い夜色の双眸の片眼は包帯に覆われている。

残る片眼を細め、彼は笑う。

「厭? 森さんは君を連れて来ても良いと言ったよ」

「要は私を巻き込んだと」

お湯が沸いて小鍋が揺れる。

彼から視線を外して、手元に集中した。

「僕のトースト、焼きすぎないでね」

「勝手にやって」

トースターに収まる食パンは二枚。

遠慮なしに冷蔵庫を開けバターとジャムを取り出して、彼は椅子に座る。

背後から感じる視線ももう慣れた。

「ねぇ、焦げ臭い」

「焦がしてるの」

薄く焼き色のついた食パンに、これまた私のお気に入りのジャムを塗りたくって彼は顔をしかめている。

気になるならせめてトースターから離れて座れば良い。

「うわぁ、真っ黒」

「そこまで黒くないわよ」

焼き色ではなく焦げ色をつけているだけだ。

「下手くそ」

「わざとだって言ってるでしょ」

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年10月28日 0時

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