燐寸27 太宰side ページ28
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空気を燃やす轟音と其の熱量に、顔をしかめて一歩下がった。
チリチリと肌を焦がすような暑さの中、より不快感を露にしている癖に中也が鼻で笑ってくる。
「一緒に燃えてきたら如何だ? 手前みたいな細い枯れ枝じゃあ薪にもならねェけどな」
「背が高くて羨ましいって素直に言ったら? 君に羨ましがられても僕はちっとも嬉しくないし虫酸が走るのだけど」
「とっとと死んで来いって言ってンだよ!」
真横に数歩ずれただけ。
其れだけでへなちょこな蹴りは躱せる。
「此の野郎ッ_」
「はぁ…」
邪魔しないで欲しい。
渋々炎から目を離して次いで跳んでくる拳を避ける。
「君の間合いは把握済みだよ?」
無駄な足掻きは止めなよおチビちゃん、と焚き付ければ中也があからさまに苛立つ。
ほらもっと、煽れ煽れ。
そうすれば_
「相も変わらず仲の宜しいこと」
建物が焼け落ちるのを合図に火柱が裂け、僕と中也の合間に割って入ってきた炎。
遅れて降り立つA。
汚れを払うようにスカァトを叩けば火の粉がとんだ。
「薪になるならもっと乾燥しといてよねえ」
フォローにならない本音を溢すAの呼吸は僅かに乱れている。
背筋を伸ばして立つ姿には疲労感が滲む。
「君たち態と喧嘩して楽しいのかい」
「太宰がいちいち鬱陶しいンだよ!」
「人のせいにするなんてお子様だな」
「何ぃっ」
「火に油を注ぐな。そうせんでもよう燃えるわ」
また溜め息を溢したAが気怠い様子で片手を挙げる。
「燃やし尽くせ」
静かに、口の中で何かを呟いてAが手を振り下ろす。
目が眩む程赤々しい、燃え盛る建物が熔け出した地面に沈んでいく。
其れでも周辺の森に引火する気配はない。
僕らの立つ位置で熱量を感じるのは、Aがそう調節しているからだ。
真夏の炎天下を思わせる噴き出す汗を拭う。
当の本人は涼しい顔で、寧ろ焚き火に手を翳して暖まっているように見えるのだから矢張りAの寒がりは常軌を逸している。
「燃えたら良いのにねぇ」
暫く跡地には何も生えないだろうと予想させる、灰ごと燃えた建物のあった場所。
散々燃やしといて未だ言うかと顔色を窺えば其の横顔が真剣で、遠くを見詰める憂いを帯びた表情に息を呑む。
「全然、燃えないねぇ。悲しいことに」
次の瞬間にはいつも通り。
冗談召かしてへらりと笑う。
「あー、疲れた。帰ろう」
お風呂に入って暖まりたいと言うAの指先を握ればひんやりと冷たかった。
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年10月28日 0時