燐寸20 ページ21
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「君が噂の人虎だね」
不器用な前髪、俯き気味の太宰から一歩前に出てやや腰を落とす警戒体勢、両眼から溢れる強い光の意思。
「成る程。太宰が選んだだけはある」
袖で隠した口のなかで呟いた言葉は中也にだけ届いたらしい。
ピクリと動いた不機嫌そうな彼の背中に手を添える。
「初めまして。私はA」
家名は
よって私はただのAであり_
「ポートマフィアだ。よろしくね」
"夕刻"の武装探偵社、"夜"のポートマフィア。
「境界線上である"暮れ時"の怪奇について話し合おうか」
不完全燃焼の納屋を横目に微笑んだ。
照明は私が灯した
少し暗いぐらいの方が顔がよく見えなくて済む。
「夜は冷える。手短に話そう」
誰も返事をしない。
此の場所は今は使われていない、太宰が所属していた頃のポートマフィア所有の建物。
慣れている双黒の二人はそれぞれ好きな定位置に陣取った。
そして二人して顔を見合わせ嫌そうに表情を歪める。
「好きなところへ座って」
「は、はい」
人虎は此の二人が揃った時も何度か経験していると聞いているから、此の反応を見るに緊張の原因は私にあるらしい。
少し迷ってから、太宰の近くに椅子を持って行って座った。
非戦闘員である太宰を守る位置としては良い判断だろう。
最後に私がポートマフィア側_中也の隣に腰掛けると太宰の眉が僅かに動いた。
わざと動かしたと分かっているから一瞥もしない。
「さて、武装探偵社とポートマフィアがこうして揃ったのは共同戦線を組む為だ」
太宰は相変わらず説明をしていないらしい。
疑問符の絶えない人虎に問う。
「依頼主である特務課から話は聞いたかな」
「いえ、何も…」
「何も? 其れは如何云う」
あぁ、別に怒った訳じゃないよ。
ただ説明を求めただけで、睨んではいない。
人虎の視線を追って太宰を見詰めた。
「乱歩さんが彼を解決する者に選んだんだ」
「乱歩…そう」
何様 僕様 乱歩様の名探偵。
彼ならしょうがない。
「では端的に説明を。依頼主は或る事実を隠蔽したい」
「放火事件のことですか?」
「惜しい。正確には放火犯の存在だよ」
目の付け所は悪くない。
優秀だね、と微笑むと何故か人虎の表情が強張った。
「…武装探偵社は放火事件を解決すること、我々は放火犯を止めることが目標だ」
わかった、余計なこと言わずに話そう。
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年10月28日 0時