閑話:春の少女2 ページ26
真選組。
Aは数日前からこの状態が続いていた。
その潤んだ瞳とやや赤らんだ頬は
野郎の癒しになるのには十分で、
また本人も何も言わなかったため悪化していた。
「山崎イィィィ!」
「ひえぇっ!?、な、なんですか副長!」
バンッと何の前触れもなく開かれた襖が
その枠に収まりきらずに外れて廊下に倒れる。
その犯人は肩で息をしてかなり慌てている。
27日にも及ぶあんぱん生活からようやく
昨日に戻ってきた山崎は驚いて壁まで後退した。
よほど急いだのだろう、膝に手をつき、
下を向いて呼吸を整えていた土方は
焦った様子で命令を下す。
「医者だ!江戸一番、
いや、宇宙で一番の医者を呼べ今すぐ!!」
「は、はい!…え?」
「後はなんだ、ありったけの氷と毛布、此処は空気が悪い、武州に移して_」
「待ってください、一体何の話を」
空気が悪い、汚れているのは主に
貴方の煙草のせいです、とは言えずに
山崎は襖を直しながら、状況の把握を試みる。
「Aが倒れた、飯は食えるのか?女中のおばちゃんに粥と…食欲がねぇならマヨネーズを持ってってやるか、後は…」
「え…ふ、副長!?」
後は沖田隊長が毎日撃つバズーカのせいかな、
なんて考えながら己の上司を見やった山崎は
ふらふらと食堂へ向かう後ろ姿を目にする。
とりあえず、症状が分からねば医者は呼べない。
そもそもAの居場所が分からない、と
足を止めかけた山崎だが沖田の姿を見つけて
その部屋へと走り寄った。
「おき」
「布団は敷いたお菓子も置いた着替えも用意したAが倒れたなぁどうすればいいんでィあぁ土方この野郎がまだ生きてらァ死ね土方」
「…沖田隊長、」
ブツブツと呪詛を唱えながら部屋を彷徨く、
正確には部屋の中央に敷かれた布団の周りを。
呼び掛けに足を止めた沖田が山崎に言う。
「ザキ、医者呼べ。江戸…宇宙一の腕利きの医者」
「あんたも同じこと言うんですね」
Aちゃんの事になるといつもこうなる、と
呆れるようで微笑ましく思いながらも
山崎はまともに話を聞けそうにない上司から
辛そうに口を開けて呼吸するAを診る。
「…これ、花粉症じゃないですか?」
「くちゅん!」
・
「薬飲んだかィA」
「目薬やってやる、来い」
[マスクは特注だZ]
「♪」
すっかり回復したAはニコニコと笑う。
その春は局中法度に花粉持ち込み禁止が
追加されたとかされてないとか。
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2018年3月2日 23時