交差世界の迷宮解読9 ページ40
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[死にゆく果実]
突如としてヨコハマの街を覆った深く濃い霧。
「知ってるかい?」
廃墟に聳える不気味な塔に男が二人。
「罪と罰は仲良しなんだよ」
赤い果実を手にして嗤う。
「ではご存知?」
「何…」
階上から聞こえた女の声。
男は驚愕したように目を見開き、声の主を探して顔を上げる。
一段ずつゆっくりと降りてくる其の姿を瞳が捉え、口元が歓喜に歪む。
「嗚呼…貴女は…」
「ねぇ、ご存知?」
もうひとりの女が尋ねる。
繋いだ手を胸の位置で掲げ、各々空いた手は長いドレスの裾を摘まんでいる。
まるで真ん中に鏡があるかのような左右対称の絵姿。
各々ゆらりと首を傾げる。
前髪がさらりと流れて額の赤い結晶が露になる。
其れは二人の女が異能者と其の異能力である事を示しており_。
「私は"愛"」
「私は"恋"」
「「ご存知かしら」」
にっこりと笑んで。
「愛と恋は交わらないのよ」
言い終わるや否やひとりの女が霧散する。
予備動作なく放たれた銀のナイフが女の赤い結晶を正確に貫いたのだ。
と、同時に撃ち込まれた弾丸によって男の赤い結晶も霧散する。
反響する発砲音が鳴り止んで訪れる静寂。
口を開いたのは男だった。
「如何やって此処へ?」
「魔法使いの南瓜の馬車で」
何事もなかったかのように。
両手でドレスを摘まみ一段ずつゆっくりと降りてくる女を男は見上げている。
視線の高さが、入れ替わる。
次に口を開いたのは女だった。
「残念だったわね」
「…」
何の件についてか、思い当たる節が多過ぎて返答を保留する男を女は笑う。
女がヒールを履いてもなお、男の方が背が高い。
互いに白を基調とした衣装に身を包み、黒々とした髪が何処からか吹いてきた風に揺れる。
靴の先がもう触れると云った距離で漸く足を止めた女が男を見上げた。
交わった視線。
艶やめく赤い唇が描く微笑に、男は小さく喉を鳴らした。
「よく、お似合いです」
「どういたしまして」
女は隠すこともなく、銀の銃身に手を沿わせて慣れた手付きで再装填を行う。
男も其れを咎める事はない。
例え銃口が己の胸に当てられたとしても。
「貴女を愛していると言ったら」
「嘘つき」
「えぇ。ぼくは今、嘘をつきました」
銀のナイフが女の首筋に宛がわれる。
「ぼくが愛しているのは、"貴女"ではない」
「奇遇ね」
私もよ、と。
空 く 斬 砲 音響 を 発 る 音
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にゃーちゃん - 初コメ失礼します!超面白いです!思わず一気読みしちゃいました!更新楽しみにしてます! (2022年2月6日 2時) (レス) @page47 id: 04c952a5b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2021年5月16日 19時