冷たい溺愛カップル【江戸川乱歩】 (ページ26)

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迷宮解読25 ページ26

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「乱歩さん！」

「……」

Aは此処にいる。

其れは間違いない。

なのに。

「此方にもいないよ！」

「あちこちが崩れ掛けてる。防火扉や崩れた壁で視界が悪い」

与謝野さんと鏡花が舞った埃に顔を覆う。

「壊れたヘリの下にもいませんでしたー！」

「屋上には誰もいません！」

賢治と谷崎が無線を通じて伝えてくる。

「だが足跡は此方へ続いている」

「漬物の匂いも此の先からします」

国木田が埃の積もった床に残る足跡を確認し、敦が廊下の先の行き止まりをじっと睨む。

「特定の異能力でしか開けられない、とか」

「Aは異能力を使わない」

太宰の考えを否定するのは僕。

「私は知らないので分かりませんが。Aさんの異能力は鍵屋である事と関係しているのでしょう？」

「鍵屋は異能力の一部に過ぎない。対物であれば異能力を使わずともAのピッキング能力で十分だ」

「では、対物でない此の場合は？」

「…」

目の前の壁に何かしらの仕掛けが有る事は明白。

其の仕掛けが何なのか。

「『人間失格』が触れるのはお勧めしません」

答えは、壁の中から現れた髑髏が知っている。

「初めまして皆様。万能鍵の乙女が長話に付き合って呉れたもので、古い骨から抜けるのに時間が掛かりました」

カラカラと、骨を鳴らす。

「おや。驚いて声も出ませんか。此処はヨコハマ。怪奇、魑魅魍魎の蔓延る街ですよ」

肉も眼もないのに、其の骸骨は笑う。

「万能鍵の乙女だって此方側では有りませんか」

＿矢張り。

ポケットに入れたままの飴を握る。

背後では皆が動揺しているのが分かる。

「其れって、Aさんの事ですか」

「もう何年も前の呼び名だよ」

敦の問いには与謝野さんが答える。

「金庫や扉だけじゃない。人の心だって開けられるAは尋問のプロとして重宝されていたんだ」

そして付いた名が万能鍵の乙女。

どんなに口を閉ざそうとも、Aの前では無駄な抵抗。

「彼女はA5158のような失敗作とは異なる完全体。そしてついに眠りから覚めて今宵完成するのです」

髑髏の高笑いとは珍しい。

カラカラとけたたましく鳴る骨をきっとAなら。

「はあぁっ！」

「」

バラバラと空中で分解し骨は山を築く。

僕の目の前には鉈を振り切った与謝野さんが立っていて。

「只の骨の分際で長々と喋ってんじゃないよ。Aなら回し蹴りでも決めたんじゃないかい」

ね、乱歩さん。

「…あぁ間違いない」

僕たちも、進むだけ。