冷たい溺愛カップル【江戸川乱歩】 (ページ28)

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迷宮解読27 ページ28

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最初に聞こえたのは何かが削れる音。

次いで怒鳴り声と断末魔。

暴風が吹き荒れているようで何も聞き取れないけれど、確かに其処にいる。

温もりが離れていく。

リィ君が還っていく。

後は私ひとりで十分。

其の答えさえ有れば上等。

「喰い破るよ」

眼を開き見据える半壊の扉。

お生憎様、妖怪なんて見えやしないので。

力任せ、運任せ、私は私自身に身を任せ。

「異能力」

此れは私の異能力。

怪奇と謎を産む、名探偵に反抗する犯行。

華麗なる名推理で暴かれる前に。

「『モノノケミステリヰ』」

此れが私の怪奇譚。

世界を引き剥がして塗り替える。

其の先に貴方がいると信じている。

否。

知っている。

分かっているから。

「」

嵐が止む。

顕現していた梅が花弁を散らし舞う。

消えていく鶯が鳴く。

愛しい人との再会を祝う。

貴方が私の名を呼ぶ事を願う。

「Aっ」

戻ってきた。

閉鎖病棟の行き止まり。

埃っぽさとカビ臭さ、何か湿気ったような建物の匂い。

驚いたような表情の皆が此方を見ている。

其の最前には乱歩もいて＿縄で縛られ床に転がっている知らない男たちは誰？

「乱歩、」

一体何が有ったの、と尋ねる前に口を塞がれる。

乱歩にではない。

背後から伸びてきた男の手に。

「っ？！」

目先に掲げられる刃、拘束される体、殺気立つ皆の視線に悟る。

人質にされている。

誰が、私が、名探偵の、恋人が？

「…ありえねぇわ」

もう其の話は車椅子で終わってんだろうが。

よって＿

『モノノケミステリヰ』
展開する花札。

引いた札は蛙。

「リィ君！」

助けて、と言う前に舌を伸ばしているから話が早い。

拘束から逃れた私と入れ替わるように迫った舌が男を絞め落とす。

人より大きな化け蛙。

そりゃ爺様も喜び勇んで来るだろう。

「ごっくんはしちゃ駄目！」

お腹を壊すに決まっている。

ぺちぺちと濡れ肌を叩くと渋々と云った表情で男を離す。

唾液でよく分からないが、与謝野ちゃんが踏んでいる男たちと仲間のようだ。

「危ないわね…全く心臓に悪い…」

久し振りの異能力行使にどっと疲れが押し寄せる。

しかも一度目は本気で、二度目は俊速でだ。

円らな目でリィ君が心配そうに見てくる。

「有り難う、私は大丈夫よ」

そう、私は大丈夫なのだ。

大丈夫ではないのは不機嫌そうな糸目の彼。

「A。弁解は聞こう」

何の？

心当たりが有り過ぎるけど今は＿

「＿ごめん」

少し疲れた。