第57話 ページ16
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壁を蹴り、宙を舞い、翻したスカートの裾が硝煙を纏っては靡く。
爆風を飛び抜けて転がりながら着地を決めると、此方に照準を合わせた銃口が揺れた。
「Aさん?!」
「やぁ樋口ちゃん」
奇遇だね、と嘯いて跳び跳ねた。
頭のあった位置を瓦礫が通過していく。
「地下はどうしたんです」
「終わったよ。でもトラブルが有って」
樋口ちゃんの背中に隠れた。
「な、何ですか?」
「梶井さん何処にいるかな」
砂煙の影が徐々に人の形をとり色がつく。
洒落た帽子を深く被った、我らが幹部サマ。
「…何だか雰囲気が」
「餅は餅屋、え、ドローン爆弾に夢中?」
踏み締めた地面がひび割れる。
重力が逆らい中也に従属する。
獲物を探す捕食者の瞳と、ばっちり目が合った。
整った顔の口角がゆっくりと上がっていく。
喜色を露に空色の瞳が熱っぽく蕩けて。
「あぁ……見つけた」
「な」
気付いた芥川くんたちも私のもとに駆け寄って来ていた。
中也の醜態を目撃し、広津さん共々驚愕に目を見開いている。
「任務は完遂しましたよ。事件は最後に起きて」
軽やかな足取りで駆けてくる中也の表情は、色気を撒き散らし熱を帯びている。
あの顔で、あの表情で、あの声で愛を囁かれたならどんな女も男だって堕ちるだろう。
私だって黄色い悲鳴をあげてドキドキしてしまいたい。
其の視線が、私に向けられていなければ。
「格納されていた武器の中に恐ろしい兵器がぁっ」
「嗚呼、無事で良かった。俺のAが居ない世界なンて壊そうかと思ったところだ」
今絞め殺されたら世界が終わるだと?
ぺたぺたと両腕や頬を触られながら視線を遠くへ逃がす。
こんな至近距離で中也の熱っぽく蕩けた表情なんて見てられない。
「戦闘の衝撃で火がついて、状態異常を引き起こす科学薬品の爆弾が軒並み爆発したんです」
冒頭の火炎放射がいけなかったらしい。
守護番よりもあの扉が弱かったのだ。
「私は息を止めていたんですけど、慌てて飛び込んできた中也がもろに吸い込んでしまって」
場所は地下、更に守護番が倒されたことで全システムが機能を停止させ換気も止まった。
最終的に痺れた中也を担いで地上へ出たものの、未だ最後の薬品が抜けない。
「其れで、何の薬品を?」
「…惚れ薬です」
納得しかけた雰囲気を、中也がぶち壊す。
「嘘を言うな。俺が吸い込んだのは自白剤だ」
「「…………」」
「……優しい嘘は必要ですよね」
現実逃避したい。
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檸檬 - とっても面白いですね!つい一気読みしちゃいました。更新楽しみにしてます! (2020年12月27日 23時) (レス) id: b134bf3ec5 (このIDを非表示/違反報告)
青い夕日 - 好きです。頑張ってください! (2020年7月2日 21時) (レス) id: e84367e7a0 (このIDを非表示/違反報告)
はるか - コメント失礼します。 とっても素敵な作品ですね!! 今、一気読みしてきました! 更新頑張ってください!!! (2020年6月20日 13時) (レス) id: b682e16ecf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年6月17日 15時