第44話 ページ48
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能天気な声が剣呑な雰囲気をぶち壊す。
「A、今日はよく晴れて入水日和になるそうだよ」
「そのようですね。暖かくて過ごしやすいです」
あの日と違って。
口にしない言葉は伝わったらしい。
見せつけるかのようにループタイを指先でなぞる太宰さんは微笑む。
近寄らない方が良いと本能的に感じ取ったのか、敦くんが遠くの方で此方に頭を下げていた。
「大体、太宰が説得に失敗するからこうなるんだ」
中也に向けていた態度はなんだったのだろうか。
幼子のようにぷくっと頬を膨らませた乱歩は恨めしそうに、何故か私を見る。
「乱歩さんなら分かっていたでしょう。Aは自分で選び進むと」
「勿論分かってたさ!」
当然だろ、と自信満々に答える姿がどこか懐かしい。
「武装探偵社の皆様にはまた御礼に伺います」
乱歩の機嫌を損ねたとして
と、その前に。
「私が訪ねても良いのかしら…」
宣戦布告にならないだろうか。
扉を開けた途端に投げられるとか勘弁して欲しい。
森さん__ボスに休暇と外泊届けを提出してからだと何日後になるのか分からない。
そのうえ外泊届けに関しては、言ったときに中也が混乱していたから私の冗句にノったボスの遊び心かもしれない。
「そう云えば、どれぐらい外に出歩けなくなるのでしょうか」
毎度警察のお世話になるのは避けたいところだ。
芥川くんや梶井さんのように有名ではないが、マフィアが陽の刻に町を彷徨くのもどうなのか。
探偵社とも敵同士だと聞くし、今此の状況がかなり特異なものであるとは認識していた。
ポートマフィア幹部の中原中也。
元ポートマフィア幹部、武装探偵社社員の太宰治。
武装探偵社社員の江戸川乱歩。
認識、させられていた。
「……おい、…聞いてンのか」
「…申し訳ありません。何か仰いましたか」
「仰いましたかじゃねェよ」
手前が聞いたンだろうが、と眉間に皺を寄せる中也にそうだったと思い出して体ごと向き直る。
「A、暴力は本当に一度だったわけ?」
「…? 逃げ出したときの一度だけですよ」
どちらかと云うと探偵社の方がよっぽど殺気に晒されて危険だった。
乱歩なら分かるだろうに、何故わざわざ聞いてくるのか分からない。
「中也に女性のエスコートが出来るわけないでしょう乱歩さん」
「開口一番に心中に誘う手前には言われたかねェよ!」
噛みつく勢いの中也が、庇うように私の前に立った。
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時