検索窓
今日:3 hit、昨日:28 hit、合計:98,142 hit

第43話 ページ47





酷く不機嫌に見えた彼は、私の姿を認めるや否やとことこと歩いて来る。

減速する気配はまるでなく、勢い其のままに正面からぶつかられた。

甘んじて受けた私も真逆(まさか)全体重をかけられるとは思っていなかった。

呆気なく倒されると云うところを、後ろから支えられる。

「……手前、ウチの補佐に何しやがる」

背中に中也の手が控えめに添えられていた。

口説き文句を吐きながら然り気無く助けて呉れるのだから、流石は慕われる幹部サマだ。

其の幹部サマの目付きは鋭く、何故か私にも向けられている。

「乱歩さんとは少々込み入った事情が」

ありまして、と続ける前に、無言のまま彼の抱き締めてくる力が強くなる。

ただ、普段鍛えているわけではないようで直ぐに力尽きてしまう。

頭をぐりぐりと押し付けることに変更されて、じんわりと肩が熱くなった。

「……乱歩」

またぎゅぅっと力が強くなる。

「………して…」

「乱歩?」

声がくぐもってしまって聞こえない。

「……してよ」

耳元で、存外低い声で。

「…心変わりしてよ」

どくん、と心臓が跳ねてしまった。

駄々を捏ねるような泣きそうな声でなく、しっかりと芯のある男の声。

揺らいでしまったことが表情にも出ていたのだろう。

横から中也の視線が突き刺さる。

「A」

大きくて骨ばった手が頬に触れ、翡翠色が真っ直ぐに此方を見据える。

そして

「もう、変わらないんだね」

其の端整な顔が、くしゃりと歪んだ。

何も言わずとも彼は分かってしまうから。

だって、彼は名探偵の江戸川乱歩だから。

「保護を提案してくれたのは乱歩なんだってね」

こうして見ると、確かにあの日の面影がある。

あの時と同じように泣きそうな瞳。

「私がもう嘘をつかなくていいように考えてくれたんだよね」

あの日の出来事をずっと覚えていてくれた。

「ありがとう、乱歩」

自分でも驚くほど優しい声が出た。

本心からそう言ったのだと自覚したときには、中也によって乱歩から引き離されていた。

「…素敵帽子くんは引っ込んどいて呉れないかな」

「探偵社と違って俺たちは暇じゃねェンだよ」

「僕らにAを取られるかもしれないって焦ったんだろう。大量の金平糖の意味にも気付かない癖に」

「アァ? 喧嘩売ってンのか」

極自然に肯定している事には気付いているのだろうか。

乱歩の背後から歩いてくる人物に、中也が更に苛立って舌打ちをした。

第44話→←お気に入り80記念閑話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (70 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
127人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。