双黒に嘘をつく【文スト】 (ページ5)

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第4話ページ5

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補佐という役割は本来ないらしい。

話をよく聞いてなかったので覚えていない。

今は与えられた私室で休んでいた。

かなり広いと思う。

いいホテルに泊まったらこんな感じだろうか、と見慣れぬ部屋をまた見渡す。

開けたままのクローゼットには新品の服や靴が並んでいた。

どれもサイズがぴったりで恐ろしい。

仕事は明日からだと言われたし、今日はもう寝てもいいだろうか。

シャワーを浴びて寝てしまおう。

立ち上がり、歩きながらそう決めたところでノックの音が響く。

「おい、いるか」

「はい、います」

姿見でざっと服装をチェックしてからドアを開けた。

「お疲れ様です中原さん。御用でしたらお呼び頂ければ参りますが」

スラスラと吐く言葉にまたほんの少し、不機嫌そうな顔をする。

「用も何も隣だろうが。いちいち呼ぶよりノックした方がはやい」

「あ、壁を叩けば良いのでは？もしくは糸で繋げて呼び鈴を設置して」

「…良いのか、手前は其れで」

「古典的な方法も洒落ていて私は好きですが」

私のいた世界は、もっと技術が発展していた。

下層フロアの窓から見えた外の景色がまるで異世界のようで、わくわくしたのは秘密だ。

「あがられますか？」

玄関で立ち話、しかも上司をというのは頂けない。

用件を聞く前にと思ったら首を横に振られた。

「厭、良い。明日からは仕事で忙しくなる。その前に、姐さんが歓迎会を開くと言って聞かなくてな」

「紅葉さんがですか」

尾崎紅葉、遊女のような言葉遣いに和服姿の美しい女性。

こんなにも綺麗な人がいたのかと、驚愕の余り息をするのも忘れた程だ。

幸い危ない脳内思考は伝わることがなく、一目で気に入って貰えたようで何かと声をかけて貰っていた。

「出られるなら今から行くが、行けるか」

「窓だけ閉めてきますね」

「分かった。外で待ってる」

わざわざ部屋を出ていくとはつくづく紳士な男だな。

さぞ引く手あまただろうに、と一人ごちてドアを開けた。

「お待たせしました」

「行くぞ」

「はい」

半歩後を付いていこうとすると、急に彼は立ち止まって振り返る。

人一人分も空けていなかったから、至近距離で顔を合わせることになる。

「手前、其れは何の嫌がらせだ」

「嫌がらせ？」

僅かに首を傾げると、苛立たしそうに彼は此方を睨み付ける。

「俺の背後に立つな。歩くなら横に立て」

「はい」

私とて立ち位置にそこまで拘りはない。

こうしてまた、歩き出したのだった。