第23話 ページ24
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机に座っていた男はトン、と軽やかに降りて来て、座る私を上からまじまじと覗き込む。
探偵社のなかで一番探偵らしい格好をして、猫のように目を細めている。
かと思うと、まんまるに目を見開いた。
「君……」
まるで死人でも見たかのように驚愕している。
開いた口から、言葉が落ちた。
「……Aなの?」
「え?」
聞き間違いなどではない。
「A、Aだ、Aじゃないか!」
確かに私の名を呟いている彼は、隣に座ったかと思えばあろうことか抱き締めてきた。
「あ、うわ、ちょっ」
頭をぐりぐりと押し付けるように、子供が甘えるようにぎゅうぎゅうと抱き締められる。
全力で体重をかけられて、倒れないようにするので精一杯だ。
「…覚えてないの? 僕のこと」
上目で、寂しそうというより不満をぶつけるように此方を窺ってくる。
周囲に助けを求めるも、彼の行動に驚愕しているのか誰もが固まったまま動かない。
唯一此の人はと思った太宰さんは、何故か私を凝視して立ち尽くしている。
「違う。私は何も」
やってませんから、と。
有罪確定者が悪足掻きをするように言い訳を並べる。
その瞬間
「乱歩から離れろ」
殺気。
膝に男を乗せた状態で回避するほどの余裕なんてない。
咄嗟に彼を抱き締めて私の腹部に沈めた。
「……ほう、乱歩を守ったか」
下手に動かすのは危険だと判断し伸ばした首には、銀の刃があてられている。
今朝と異なるのは、どうやら刀の主が男らしいという点のみ(夜叉の性別は分からない)。
あの殺気は経験者の、其れも玄人のものだ。
頭を下げさせなくとも的確に私の首だけを飛ばせただろう。
今だ怒り冷めやらぬ刀は首に吸い付いたかのように離れない。
「…どなたか、早めに誤解を解いて頂けますか」
「むーっむぐぅーっ」
「起き上がられた拍子に押されたら首が飛びます」
「人質の心算かっ」
「もう黙っとくんで誰か」
おいおい、マフィアより物騒かよ。
遠い目をした私に漸く国木田さんが説明をして呉れる。
要らない事まで言って、再び刀が鳴ったところで敦くんたちが援護して漸く解放された。
「一寸Aッ! 苦しいじゃない!」
「此ればかりは本当に私のせいじゃ…」
耳まで赤く染めた彼_乱歩さんはラムネ飲んでくると言って奥に消えてしまう。
取り残された私を国木田さんが紹介した。
「社長、彼女は_」
「待て、社長?」
後ろには和服の美丈夫が、申し訳なさそうに立っていた。
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時