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第42話 ページ45





私の被せるような台詞に中也は僅かに目を見開く。

森さんはにっこりと笑んで頷いた。

「ふむ、丁度喉が渇いていたところだ」

「お任せいただけますか?」

「勿論」

手が空を掻く。

与えられていた部屋から、シルバートレーを今此の場所へ。

「種も仕掛けもありませんよ」

息をするように、嘘を吐く。

「中原さん、今の時点で何かご不明な点はございますか」

黙りこくっていた中也は肩を揺らす。

森さんは何も言わない。

今だけは、私は客人の立場なのだから。

「…なんで、戻ってきた」

「探偵社、太宰さんのもとからですか」

乱歩を怯えさせ、次に目覚めたのは暗い地下だった。

私の家だよと微笑んだ太宰さんは半分嘘だったから、元居住地といったところだったのだろう。

探偵社は君を保護する用意がある
伸ばされた手、口付けを。

拒んで今、私は此処にいる。

「爆弾のことは太宰さんが言ってしまったのでしょう。理由にしようとしていたのに」

医師だと名乗った森さんは、其の言葉に笑った。

人体に爆弾を埋め込むだなんて、何かあったらどうして呉れるつもりだったのだ。

「戻ってきたのは、興味があったからです」

記憶を取り戻して図太くなったのかもしれない。

左手を隠すように両手を合わせ、未だ預けたままの指輪を思い出す。

君が決めたのなら、そうしよう
太宰さんが笑う。

指輪は、私が預かっておくよ
此れで君は私のもとに帰ってくる
私が何も言わない内から、そうすると分かっていたかのように此の場所への道を示した。

私は探偵社には入れない。

私は闇に生きてこそ、輝くもの。

「…森さんの次の条件を聞いてから、話を決めようと思って」

此れは商談だ。

私は手を止めて、微笑む。

背中がぞわぞわとするような、大人の微笑を返してくる森さんに期待した。

「初めに、条件を御伺いしても宜しいですか」

「……良いだろう」

中也も思い出したようだ。

其の条件()、と言ったこと。

「貴方は私に何を望みますか」

嘘つきを、手札に加える覚悟はありますか?

そう問うと、森さんは嗤う。

一瞬にして空気が呑まれる。

「私はポートマフィアの長だ」

美しい。

身体が震える程の壮絶な笑みと、人を殺すことを何とも思っていない瞳の妖しい輝き。

自分も口角が上がっていることに気付いていた。

「君に望むのは組織への利益、対価は__」



窓枠に乱反射する朝陽が、室内を白く染める。

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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時

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