第20話 ページ21
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「君は助けられた恩を返すために働いている」
「その通りです」
初めてボスに会ったとき、軽く診察だと言って幾つかの質問に答えさせられた。
私の前の世界のことには余り触れられず、捕虜のような扱いであると説明を受けた。
それが今になって踏み込んで来たのは。
「其れだけでは足らないのだよ」
「忠誠を誓えと」
にっこりと笑みを張り付けたボスが頷く。
「君の貢献は素晴らしい。その態度が屋敷の主人に対する感謝の意で在る事だけが惜しい」
要は、手放す気が無くなったと。
「君に帰る手段は無い。あるならば潰そう。断るならば他の手に渡る前に」
「物騒ですね」
「マフィアだからね」
物騒だが考えは理解出来る。
最も合理的で美しいプロセス。
本当に此の人は組織の長に向いていると惚れ惚れしていると、隣の部屋から女性が出てきた。
「悪いのぅ」
悲しげに長い睫毛を伏せて、耽美な和装の袖で口を隠す紅葉さん。
「いえ。お仕事ですから」
つい微笑んで首を振ったものだから、夜叉の刀で一筋赤い線が入ってしまう。
だがそんなものは気にならんぐらいに紅葉さんは美しい。
「手前……本当に姐さんの事好きだな」
よく此の状況で、と中也がドン引くなかボスも可笑しそうに笑う。
「ポート・マフィアに忠誠を誓った暁には、尾崎君の補佐に付けよう」
「破格の条件ですね」
「凄まじい食いつきだなオイ…」
俺で悪かったな、なんて言うから其れは違うと訂正をした。
「こう見えても不安だったんです。だから、目を覚ましたときにいたのが中原さんで、上司が中原さんで本当に良かったと思ってます」
「…そうかよ」
振り向いていたので、わざわざ視界を開けるためにずれてくれていた夜叉に礼を伝えて正面に向き直る。
獰猛な猛禽類の眼差しで此方を射抜いている男に。
「お断りします」
一言で空気が変わった。
肌を刺すような緊張感、闇に生きる者たちの腹の中。
「私の名前は
一月ぐらいじゃ体は忘れない。
完璧なカーテシーを披露して、淑女の笑みを浮かべる。
「森鴎外様。其の条件は飲めません」
動いた夜叉の首だけがその場に残り、光の粒子となって宙に霧散する。
凄まじい速度で放たれた足蹴りは、入れ違うように前転で身をひるがえしてさける。
愛用のリボルバーは愚かナイフさえない、が。
「さよなら」
《窓が割れていないのは嘘》
粉々に砕け散り開いた空への扉。
身を、投げる。
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時