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・ 安吾side ページ30






『堕落論』




「御機嫌よう」


気取った言い方に眉を寄せると

変な顔だとケラケラ笑いながら女が隣に座る。


「マスター、ホットミルクに蜂蜜」


酒は飲まない。


弱い訳ではなく、寧ろ蟒蛇なのだが

彼女自身が甘党で酒の味は好みでないらしい。


折角バーに来たのに、と云うのは薮蛇だろう。


「結論から言うと成功」


「…後日に報告書を受け取る予定の筈ですが」


「形に残しても危険度が増すだけ、

誰にも知られたくないでしょう。


…………異能力でない力について、ね」


ぞくりと背筋を何かが走る。


彼女の存在を知ってしまった日、

あの日こそが人生で一番不幸な日だろう。


「一人、確かに確認しました」


「政府は闇を闇のままに、

異分子(イレギュラー)を忘却出来る。


私は私の目的が果たせる、綺麗なお話ね」


自嘲気味に飲むのは甘いホットミルクで

なんだか締まらないが、未だに目も合わせない

彼女の頭は常に思考を続けている。


「貴女は、元の世界(・・・・)

帰りたいと思っているんですか」


「異能力が存在しない世界…


転生なんて話、信じてたんだ?」


彼女には世界を客観的に見ている節がある。


まるで画面の向こうを見ている様な、

当事者でありながら一線引いた存在。


未だに不解明なことが多い異能力、ではなく

新たに異能力ではない『力』を見出だした存在。


「貴女の研究については、今や

特異点と同様に政府の研究対象でも在ります。


一握りも知らない最高機密事項です。


其れを此の様な場所で軽々しくですね、」


「はいはい。じゃあ此れ遺品ね。宜しく」


残りを一息に飲み干して彼女は席を立つ。


最後まで目を合わせなかった彼女の置き土産。


「……『堕落論』」


何の前触れも無く増える人口、

此の世界(・・・・)の知識、有する強力な力。


彼女は其れを秘密だとしながら、

僕に取引を持ち掛けてきた。


他の転生者の排除、そして、彼女の自由の保証。


用意された戸籍と人生で彼女は生きている。


内務省異能特務課としては喉から手が出るほど

欲しい、特異点にも繋がる鍵を持っている。


「……確かに、此の遺品の主は

存在していた(・・・・)様ですね」


異能力の痕跡が証明した、確かな存在の痕跡。


燃えるごみの日は何曜日だったかを

思い出しながら鞄にしまった。

第五章 『未知』→←・ 広津side


ラッキーアイテム

名も知らぬ人からの微笑み


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6月の飴玉 - 様々な視点で描かれているので、とても新鮮でおもしろいです!! (2020年5月18日 12時) (レス) id: 913e8668f8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2019年7月9日 16時

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