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・ 鏡花side ページ26






『夜叉白雪』




放った斬撃は傷一つつける事も叶わない。


「さっきの方が良かった。


焦らずに、叩きつけずに滑らせてみて」


「ん、分かった」


A姉とは武装探偵社で再会した。


と言っても、『前』に一度話した事があるだけ。


座敷牢で死を待つ為に息をするだけだった頃。


「貴女が、鏡花ちゃん?」


聞いたことの無い声は、

闇に落ちて人ではなくなった私には暖か過ぎて。


「あ、貴女が何故此の様な場所に_!」


「夢くんの誕生日プレゼントを渡しに。


用意するのに時間が掛かっちゃってさぁ」


言い争う、と云うか一方的に怒るような

会話が聞こえてくる。


先程の声の主はのらりくらりと避わしている様子。


「加えて()を飼い始めたって聞いてね。


ちゃんもお世話出来ているかの確認も兼ねて」


「幾ら貴女と云え、(やつがれ)を止める事は」


「止めないってば。治だって子供じゃないんだし

自分の事は自分で対処するでしょう」


嫌だよ面倒臭い、と聞こえそうな副音声をつけて

彼女は再び此方に近付いてきた。


「其れで、此所での暮らしは如何かな。


愉快な仲間達とペット可で家賃格安な場所を

お勧めに来たんだけど」


「………」


返事は出来ない。


けれどそれさえも分かっていると言う様に

彼女は黙って微笑んでいる。


その背後で動いた。


「其奴に生きる価値を与えられるのは此所だけ」


プルルルルル…


「ぇ、なんで電話が_」


「____駄目!!」


目を丸くした彼女を牢越しに突き飛ばす。


痩躯の黒衣の男から、胸元の電話機から、

無慈悲にも言葉が紡がれた。


「『夜叉白雪』、花の魅せうる幻想を排除せよ」


「電話指令?___っぐ」


ザシュ、と鈍い音がして。


「…あ………あ……………」


胸の中心から生える銀の刃、力の抜けていく四肢。


生命が砂のようにさらさらと流れていく音、

………甘く優しい花の香り。


「矢張り惜しい。ゴホッ…貴女は戻って来るべきだ」


「ガハッ…もっと直球(ストレヱト)に言いなよ…」


くの字に曲げた身体で吐いた血は

赤い椿となってくるくると回って落ちていく。


「…異能力、『恋椿姫』」


暗い地下にいきなり目映い光が射し込む。


夜叉が手元に戻ってきたと感じると同時に、

頬を誰かにするりと撫でられた。


「白い王子様を迎えに寄越すよ。また会おうね」

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ラッキーアイテム

名も知らぬ人からの微笑み


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6月の飴玉 - 様々な視点で描かれているので、とても新鮮でおもしろいです!! (2020年5月18日 12時) (レス) id: 913e8668f8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2019年7月9日 16時

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