9:死 ページ10
「でも……」
「ごめん悠仁、ここだけは絶対譲れない。“呪い”のことは、私達呪術師に任せて」
虎杖に反乱の余地を与えず、Aは真剣な顔で言い切った。
虎杖の正義感の強さはよく知っている。こういう時に、何もせず突っ立っていられるような性格じゃないこともよく知っている。
しかし、“呪い”に対して何の対抗手段も持たない一般人が呪いに立ち向かっていくのは自 殺行為だ。
──悠仁には、死んで欲しくない。
「行けるか?」
「勿論!」
伏黒とAは頷き合ってから、呪いの蔓延る校舎に飛び込んでいった。
呪術師として任務にあたっていると、既に手遅れだったという事態は少なからずある。
そんな場合、現場からは何も聞こえない。
悲鳴も、断末魔も、
──しかし今回は違った。
2人が校舎に入って間もなく、どこからか甲高い悲鳴が聞こえてきたのだ。
虎杖の言っていた、“先輩”の悲鳴に間違いない。
「! もう部室を出たのか!!」
「急がないと!!」
既に呪霊と遭遇してしまったらしい。
これはいよいよ一刻を争う事態だ。
(相変わらず気配が無茶苦茶だ!)
伏黒が、渡り廊下に通じる扉をガラッと勢いよく開く。
しかし扉の先の廊下には、2人の行手を阻むかの様に1体の呪霊がいた。
伏黒が不愉快そうに舌打ちをする。本日2度目。
Aが攻撃に転じようとする前に、伏黒が動いた。
「邪魔だ」
掌を打ち合わせてから、影絵の要領で「犬」の形を作る。
「『玉犬』」
伏黒がそう言うと、彼の足元の影から『玉犬』2匹が現れ、遠吠えをした。
「──喰っていいぞ」
「何言う通りにしてんだ俺は……!」
2人が入っていった校舎の前で、虎杖は葛藤を抱いていた。
遠ざかっていくAの背中も、追いかけることが出来なかった。一番守らなくてはいけない、大事な存在なのに。
(俺は何にビビってる?)
──死。
つい先程自分の祖父に、という形で目の当たりにしてしまった。
(そうだな……学校からは死の予感がする。死ぬのは怖い。爺ちゃんも死ぬのは怖かったかな。そんな感じは全然しなかったな……俺も泣いたけど、怖かったからじゃない。少し──寂しかったんだ)
心の中で、自分自身に問いかける。
(今目の前にある「死」と、爺ちゃんの「死」──何が違う?)
──オマエは強いから、人を助けろ──
祖父の遺した言葉が、虎杖の頭の中を駆け廻った。
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