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エルヴィンside
本当にその店はあった。
裏にあるせいで朝日すら差し込まない店。
やっているのか？
窓からそっと中を覗くと大量の新聞紙とにらめっこしている小さな背中。
「フッ…。」
つい可愛くて笑みがこぼれた。
カラン…カラン…
「いらっしゃい。」
こじんまりとしたその店はA以外に客は居ない様子。
建物の陰に隠れるようにしているせいかきっと誰も気づかないだろう。
人の目が無い。
それがかえって落ち着く店。
入ってきた私に店主が驚いていた。
「あぁ。」
軽く手を上げAに用事だと伝えると「そうかい。」と言って中に戻って行った。
Aの座っている席に近づくが熱心に新聞を読んでいて一向に気づかない。
テーブルの上には焼かれたパンと湯気の立っている紅茶。
そして何社にも及ぶ新聞紙の山。
(朝食か…。)
静かに前に座るとやっと気づいたAが顔を上げた。
「お…。エルヴィンおはよ。早いね。」
「おはようA。朝から忙しいな。」
読み終わったと思われる新聞紙を手に取って開いてみると中身は経済新聞。
市場の動きにペンで何か所かに印がつけられていた。
「あぁ…。いつもの事。よくここが分かったね。」
「Aの部屋に行ったら君の部下からここだと教えられた。」
「ああ。なるほど。…マスター！紅茶もう一杯とデザートちょうだい！」
「はーい。」
奥に声をかけたAが読んでいた新聞を閉じて紅茶をすすった。
「毎朝なのか？」
「これ？…ああ。さすがに毎日は無理だよ。週に数回。この店も開いている事が少ないから。」
「そうか。この量の新聞…全社か？」
「まさか！大手だけだよ。それでもこの量。」
フフフと笑いながらトンと新聞紙の山を叩いた。
「報告だけでは分からない事も多いからね。昔は新聞社の見張りの為に読んでいたけどそれ以外も情報が多いから今でも読んでる。」
「…壁内菓子店トップ３…。」
「あぁ！！！」
Aが折り目を付けていたページを広げると明らかに社会とは関係の無い記事。
バッと立ち上がったAに新聞紙を奪われた。
「これは…別に…。」
ゴショゴショ言いながらコソコソとそのページをカバンにしまっているのを見てつい笑った。
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作者名：じゅく子 | 作成日時：2019年11月21日 20時
