悪性ヒント�� ページ30
「アンナさん、だっけ？ 全く起きないね……」
ベッドの上で眠るアンナを見て、イルカはため息をついた。
「でも良かったの？ あんたのベッド、血で汚れてるけど」
「オオガミくんにも言われたけど、大丈夫だよ。次のゲノム事件が起きるかもしれないのに、そんな事、言ってられないからね」
イルカ、くらげ、アネモネの三人は、アネモネの家からイルカの家へと戻り、目が覚めないアンナの看病をしていた。くじらは待ち合わせ場に行ったきり帰って来ていない。何も起きてないと良いけどね、とイルカは再び息をつく。
「水月ってば、心配性だなぁ。きっとくじらくんなら大丈夫だよ！」
「海月のその根拠のない自信は一体どこから来るの……」
「でも水月だって、くじらくんの事、信じてるでしょ？」
幼い頃からの付き合いであるくらげには、イルカの考えはお見通しらしい。別にそうでもないよ、と誤魔化して、イルカは一口シェイクを飲んだ。
「……あら？」
スマホを操っていたアネモネが、驚いた声を上げて、二人にスマホの画面を見せて来た。
「……ねぇ、このゲームって……」
そこに映るのは、人狼ゲームの中継動画だ。人狼プロジェクトの行うゲームは、毎回ネット配信されているのだが……。
「こ、これ、くじらくんだよね……！？ あれ？ この男の人、誰？」
くらげが首をかしげて指したのは、道化師のような出で立ちの男性。参加者はくじらも含めて五人いるようだが、この男は参加者ではないらしい。むしろ――。
「いや……ルームマスターがゲームに参加する事なんて、あるのかな……？」
確か、ルームマスターはゲームに参加しない、というルールがあったはず。直接的に影響を与えてはいけないとされるため、この男がゲームに参加するのはご法度だ。だが、それがネット中継されている……？
「人狼プロジェクトの任意の上って事かしら？」
「いや……そうなると、ゲームの参加者達に批判されるだろうから、ルームマスターのいるゲームを行ったとしても、配信はしないと思うよ」
「じゃあ何で配信されてるんだろう？ っていうか、そもそも何でルームマスターがゲームに参加してるのかな……？」
あり得ない状況に首を捻りつつ、くじらは大丈夫だと、くらげは信じて疑っていない。だって、彼は――。
「……あら？ そういえば、オオガミは？」
アネモネの台詞で、一同はオオガミがいない事に気づいた――が、もう遅かったのだ。
その頭上に、バットが勢い良く振り下ろされた。
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