天まで届く。 ページ13
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「……天、起きてるなら聞いて。
私、ただのヒドインだよね。わかってる、勝手に天と陸を傷つけたって思い込んで、勝手に音信不通になったの。……バカだよね、本当にバカ。
……もう逃げないよ、私。ううん、逃げたくない。絶対に。
2人に出会って、世界がキラキラしてるの。毎日が楽しくて、幸せで、いつの間にか2人の背中を追いかけてるの、このままの幸せを。それから、誰かに幸せにして欲しくて、九条の所へ行ってしまった天を追いかけてただけだった。
……ちゃんと自分で掴みに行くよ、これからは。だから……」
頬にそっと触れた。
別に白雪姫みたいに、キスをしたら目覚めるなんて思ってもいない。
でも、これだけは言わないとって思ってた。逃げたらダメ、前に自分で進むの。
だから、恥ずかしくたっていい。伝えるの、届けるの。
「……好き、天が。
ずっと好きだった、もう、失いたくない」
だめ、天の顔から顔を逸らしちゃいけない。なのに何で、視界は揺らぐの？この水滴は何？
溢れる私の目から零れる涙はとめどなく流れては落ちていく。
もう失いたくないから、さよなら。
椅子から静かに立ち上がって、逃げるように去りたかった。
「……逃げるの？」
「……っ…いつから、起きてたの…」
「入ってきてから、ずっと」
「……ずるい、卑怯」
「君の方がずるいし卑怯だから」
ややあ、と体を起こすなり、掴んでいた私の手首はぐいと引き寄せられる。
そのまま口付けをし、舌が捩じ込まれた。
「わかった？僕の方がずっと想ってたんだけど、これが19年間の片思いの末路。
僕だってずっと我慢してたんだけど？」
「し、知ら……っ」
唇を、頬に添えられた親指で塞がれて、何も言えない。
その妖艶な笑みは、私を底なし沼へと落としていく。
「知らないなんて言わせない、逃げないんでしょ？なら、ずっと僕だけ見ててよ。
誰だって人の助け無しじゃ前へ進めない。なら僕が君に寄り添う、僕がAの背中を押す。…だから君も、僕の背中を押し続けててよ」
「天、……」
「ふふっ、これでも“抱かれたい男No.1”の横に立ってるから。
……それより、“好きだった”って何？何で過去形なの？」
「……秘密、絶対言わない」
面会時間が過ぎる寸前まで2人で思い出に浸る。それから帰り際に、「もう1回」とせがまれた。
今度は触れるだけの、少し長いキスだった。
天まで届いたよ、ちゃんと。
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作者名：月詠 | 作者ホームページ：
作成日時：2016年10月17日 23時
