居酒屋妄想日記 ５冊目

ヒーロー ページ6

〆．



良かったのだろうか。



あの手の人は、後に「嫌な思いをした挙句、余分に金を取られた」と意味不明なクレームをつけたりする。



忙しさは変わらずだけど活気を取り戻した店内で、私はパントリーに回された。



代わりに、パントリーをしていた大毅くんがホールに出ている。



まだ体は震えていて、うまく手を動かせない。



そこは、さりげなく大毅くんやともくんがフォローしてくれた。



赤「大丈夫、大丈夫。俺がおるやろ？」



ぽん、と頭に乗せられた手。



大毅くんは困ったお客さんがいる時、いつも助けてくれる。



……ヒーロー、みたい。



「はい」



赤「俺に頼っとけばええねん。不安なら、俺が安心させたるからさ」



かっこいいこと言っちゃって。



淳太さんが鼻で笑っていた。



だけど、バタバタしている中で助けを求めるというのも、難しい話だ。



さっき割れたグラスが足に刺さったということも言い出せないまま、時間だけが過ぎていった。



赤「A〜、６番さん追加ドリンクで生！」



「はい…！」



あっ、生が切れた。



中途半端に出て止まってしまった生。



樽を取り替えるべく新しい樽を持ち上げるけれど、



「ッ！！」



足の傷に響いて、落としてしまった。



とはいえ満タン入った樽は重いから、１センチも持ち上げれてなかったけれど。



赤「A、」



「大丈夫です。すぐやります」



店の決まりで、私は黒のスキニーを履いていた。



なのに、目で見てわかるほど濡れてしまっている。



22時を過ぎて、もう店内に三組ほどしか残っていないタイミングで、照史さんにパントリーの掃除を頼まれる。



赤「……ええよ、俺やるから」



「でも、」



赤「Aは店の奥の方、ほうきしといて。淳太ー、注文聞くんは任せたっ！」



黄「呼び捨てすな！わかったわかった」



大毅くん………もしかして、気付いてる？



パントリーの清掃は割と力仕事だし、注文を聞く時はしゃがまなくてはいけない。



優しさに胸が高鳴る。



そしていつの間にかバイトが終わる時間を迎えていて、二階に上がる時も、



「筋トレ〜！」と言って、私を抱えて上がってくれた。



だけど、ちょうど血の滲んだ部分に触れた腕を見て、大毅くんは目を丸くした。



〆．

頼る、甘える→←お客様は神様じゃない

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