居酒屋妄想日記 ３冊目

６人の想い ページ6

〆．



行き交う人はまばらで、誰も私たちのことを見ていない。



それをいいことに、崇裕さんの視線は逸らされることなく、彼の瞳の中で私が揺れていた。



優しくて、頼りになって、一緒にいると落ち着いて。



お兄ちゃんみたいな人だ……って、そう思い込んでいた。



だけど、キスなんてしてしまったら？



きっと戻ることは……できない。



智洋先輩とのキスは、たまたまの事故で、



あの時恋愛感情が動くことは無かった。



……今は？



私がここで目を瞑ったら？崇裕さんに答えたら？



そもそも自分がどうしたいのかすらわからない。



紫「……はは、困らせてもたな。ごめんごめん！でも、俺は本気やからさ」



言葉にしなくたって、真剣な瞳が、そう伝えている。



「それって………崇裕さんだから？」



紫「ああ〜、そうやな。女に飢えた男やからやない、俺が、Aを欲してるからやで」



「つまり、崇裕さんは………」



紫「言うつもりはなかったけど、隠す気もなくなったからな。A、好きやで」



いつも癒しの崇裕さんは、やっぱりこういう「男の人」の顔も持っていて、それが心をくすぐる。



「ありがとうございます……」



嬉しくて、でも困る。



私の鼓動は暴れたままで、これからどうやって接したらいいのか……。



紫「最後に決めるんはAやからなぁ……。今、誰がAに告白してる？」



「えっと……」



紫「…………その反応は、ほぼ全員って感じやな。あと照史くらい？」



「あ、照史さんは少なくともそういう目で……見てないんじゃ……？」



それに、淳太さんもちょっと曖昧……。



紫「…………ま、俺から言うことでもないしな」



ふ、と笑った崇裕さんは、



紫「まあ俺の気持ちは知っといてや」



ぽん、と頭に手を乗せ駅まで送ってくれた。



紫「ほんなら気ぃつけて」



「は、はい………崇裕さんも」



崇裕さんは、私が改札をくぐってからも手を振り続けてくれた。



姿が見えないところまで来て息をつく。



そうか……崇裕さんも、私のことを想ってくれてたんだ。



「流星先輩………のんちゃん………智洋先輩………淳太さん………大毅先輩………崇裕さん…………」



三者三様に伝えられた気持ちを、私はどう受け止めたらいいんだろう。



半分こしたアイスは、いつの間にか溶けきっていた。



〆．

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