居酒屋妄想日記 ３冊目

上書き ページ27

〆．リクエスト



赤「………………A」



「は、はい」



賄いを食べる前に、大毅先輩が私の名前を呼んだ。



"西畑"ではなく"A"。



ただそれだけで、とても安堵した。



赤「さっきはごめん。変に庇ったら、余計エスカレートする思て。きつい言い方してもたわ」



「と、とんでもないです！ありがとうございました」



頭を下げる。そっか、大毅先輩の優しさだったんだ。



そういえば、大毅先輩はかなりの平和主義だったっけ(の割にイタズラしてはみんなを怒らせてるけど)。



赤「………ただ、俺の腹の虫はおさまらんわけ」



「へ？」



大毅先輩は、私がさっきお客様に強く握られた手首を優しく撫でた。



赤「赤くなってる……許されへんわ、あいつら」



「そんな………これくらいで、」



赤「これくらい、ちゃう。ほんま、気付いた時気ぃ狂いそうやった」



眉間に皺が寄る。



赤「なあ、どこ触られた？」



「っ、」



赤「どんな風に触られた？」



触れてほしいって。



上書きしてほしいって。



そう思うのは、私の贅沢なわがまま？



「……まず、手を握られました。両手で、包む感じで」



赤「………………」



大毅先輩は同じように、優しく手を重ねる。



全然違うの。なのに、どんどん気持ち悪さが消えていく。



「肩も触られました……。肩凝ってるって。それから、それは胸のせいだからって、手がゆっくり降りて…」



赤「………………ムカつくわ」



「でも、後は手首で、それくらいです。顔がだいぶ近かったとかはありますけど」



赤「どのくらい？こんな感じ？」



「わ、」



唇がくっつきそうな距離まで顔が近づいた。



赤「無理や、ほんまに」



顔の距離はそのままだけど、体の距離はなくなる。



赤「あの変態親父、二度と来店すんな」



「一応お客様ですから……」



赤「あんなん客ちゃう。なんで俺、ギリギリまで気付けんかったんや……Aに怖い思いさせてもたんや……」



悔しそうな声。



「……でも、助けてくれたじゃないですか。大毅先輩は、私のヒーローです」



赤「好きなんやから、当たり前やし…」



大毅先輩は体を離してはくれなくて。



少しずつ冷めていく賄いの隣で、



大毅先輩のまた一つ違う顔を見た。



〆．

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