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You side
「は、はい!?」
私の背後から、突如として青年の不思議そうな声が聞こえてきた。一方、私は無我夢中にポケットを掻き回していたため、突然自分の職種(と呼べるのかは微妙だが)を呼ばれ驚いてしまった。
「どうやら、先程から慌てていらっしゃるようですけれど……何かお探しですか?」
「いえ、別に……って、うわっ!?」
私が誤魔化そうとした瞬間、フョードルさんは私の手首をそっと掴んで、まだ痛みのある左手に目線を合わせた。彼は私の指から流れる血を見るなり、目を見開き「信じられない」とでも言いたげな顔つきになった。
「Aさん、一体どこでお作りになったんですか?この指の怪我」
彼の綺麗な紫色の瞳は、完全に私の指先へと向いていた。それはもう、弱き者を慈しむかのように。その雰囲気に、私は思わず見惚れてしまっていた。
「……Aさん?」
「す、すみません。……その怪我は、お皿の破片が刺さった時に出来た物だと思います。でも、大丈夫で」
「大丈夫な訳無いでしょう」
「こんなに綺麗な指を傷物にして」と、彼は私以上に指先の傷口を気にしている。……やっぱり、フョードルさんは優しい人だ。
彼は私の指をそっと撫でながら、その裂けた傷口をじっくりと見つめていた。それはまるで、怪我をした子供を見る聖女のように、高価な宝石に傷を見つけた宝石商のように。
彼の目つきからは勿論優しさも感じられたけれど、どこか得体の知れなさも少なからず存在はしていた。
「急いで手当てをしましょう。さぁ、これを」
そう言って彼が差し出したのは、何の変哲もない包帯。日本で言う所の薬局でよく見るような物だ。普通の人であれば「なぜ急に包帯が出てくるのだろう」と思う人も少なからず居るとは思うが、その時の私は彼の変わり様を処理するので精一杯だった。
「わ、ありがとうございます」
私はありがたくその包帯を受け取ろうとした。が、その途端彼は何か閃いたような顔をして、ようやく離したはずの私の腕を再び握った。え?なんで?
「ふむ……やはり右手だけで怪我の処置をするのは難しいでしょうか。――聖女様のためです、ここは僕が手当てをして差し上げましょう」
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びねつ(プロフ) - 夜のお魚さん» お褒めいただきありがとうございます……😭😭そう言って頂けると凄く嬉しいです🥲応援を糧に更新頑張ろうと思います‼️👍 (2月27日 20時) (レス) id: 50028a7fa3 (このIDを非表示/違反報告)
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