復讐・２ ページ40
Aは身をかがめ、男女関係なく赤面させるであろう魅惑的な眼差しでじっとグリルを見つめる。
「うん、いい感じ。」
オレンジの身の部分とプスプスと脂が跳ねている皮を見て皿に移し、骨を取り除いていく。
夜からはコネシマが目星をつけている警察関係者の張り込みをするのだが、Aは一度早めに家に戻ることができたためコネシマとの約束通り鮭を焼いていた。
大根おろしを添え、小皿に漬物を盛っていく。
タイミングよくコネシマからの着信と、インターホンが同時になる。コネシマがAの住むマンションに来た合図だ。
予め決めた通り、音声を出さずにエントランスの鍵だけを解錠する。
箸と茶碗、味噌汁を食卓に並べている間に着信と部屋のインターホンが鳴る。
「よお……邪魔するで。」
「お疲れ様。ちょうど夕飯できたとこよ。食べて行くでしょ？鮭。」
焼き鮭の器を持ち上げて見せるが、スーパーでの興奮はどこへやらコネシマは心ここに在らずでAの部屋を見つめている。
「コネシマさん？」
「鮭……ああ、そういやそうやったな。サンキュー食うわ。」
様子のおかしいコネシマにAは首をかしげるが、夕食が冷めぬうちにとその場での言及は避けた。
ーーーー
「決まってんだよ。この食い方がいちばんうまい。」
コネシマの鮭マヨネーズ論がひとしきり披露され、どっと疲労を感じるAは苦笑いを浮かべながら、コネシマの茶碗におかわりを盛る。
「好きにして。あなたのいちばん満足いく食べ方で。」
完食したコネシマに自分の皿を水に浸けておくよう言って、Aは先に洗濯物をしまいコネシマの布団を出した。
今日はAの家で泊まりである。
『死んだおふくろが』
コネシマの敷布団にカバーをかけながら、昨日のコネシマの発言を思い出していた。
Aの母は幼いときに病気で亡くなった。
Aの子ども時代は、他人がもっていて当たり前のものは、自分には無いのが普通だった。
それゆえに他人の母親が惜しみなく時間と労力と愛情を我が子に向けるのを疑問に思っていた。
同じ女として、なぜ自分よりもそこまで他人を優先することができるのだろうか、と。
父が亡くなり、武藤家に迎えられまどかという年下の存在ができた。
16歳のAは母のいないまどかに自分を投影し、本格的に世間の母親を自身に投影した。
それまでも、ずっと何かの真似をしていた気がする。
ふと、流水音と陶器がぶつかる音が聞こえてきた。
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作者名：サハラ | 作成日時：2022年1月6日 12時
