【d!】氷の海に沈む花 (ページ37)

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萌芽・２ページ37

コネシマの運転で和食レストランに行き、ここはAが財布を出して店を出た。
その足でスーパーに寄り次々と食材をカゴへ放り込んでいると、コネシマが意外そうな視線を向ける。

「オマエ料理するんか？」

「料理くらいするわよ。味は人並みだけど。」

「じゃあ鮭作れるか？」

「…鮭？」

またおかしなことを、と呆れた目でコネシマを見るが本人は真剣な顔をしている。

「お好きなんですか？」

「皮パリっとさせて焼けるんか？」

「塩鮭？そのくらいならできるわよ。」

そう告げるととたんにコネシマの顔が輝き出した。
そんなにお好きなのね、とこどもを見るようなきもちで微笑む。

「明日オマエんちで焼いてくれ。オマエのつくった鮭が食いたい。」

迫真プロポーズ顔のコネシマの気迫におされて了承したAだったが、翌日マヨネーズをもりもりかけ出すコネシマにドン引きすることとなる。

帰宅し、自宅のことながら何も収納について知らないコネシマに、それならばと自分の好きなように買い出し品をしまっていく。

「明後日はイカ大根ですから。」

「明日は鮭な。」

「はいはい。」

片付けが終わるまで、コネシマはただずっと脇でAの手が動くのを見ていた。
その目はどこか遠くを見ていて、「この人は感情がわかりやすい人だな」とコネシマの人物像を改める。

「誰かのことでも思い出してるんですか？」

今のこの家に女の影がないことは気づいているが、その上でAは尋ねた。
元カノのことでも思い出してるのだろうと思っていたが、それは違った。

「ああ……死んだおふくろも、そういえばよおやっとったなって。」

「……そう。」

コネシマのプライベートを聞くのはこれが初めてだった。
煙草吸ってくる、とバルコニーに出ていったコネシマの背中を振り返る。
Aも母親はすでに幼いときに亡くなっているが、顔もあまりはっきり覚えていないため、思い出すような記憶ももちあわせていない。

人間なのね。
そう言葉がぽろっと転がり出た。
狂犬と恐れられバディすら冷たくあしらいながらも、コネシマの中には感情や意志が強く芯をもってあるようだった。

不思議な人。私とは正反対。
買ったばかりのルームウェアと下着を取り出し、Aは風呂で熱いシャワーを浴びる。
めちゃくちゃだけれど、でも嫌いじゃないな。
この人と一緒にいると、自分の中の感情が溢れるように出てくる。彼の自由さに触発されているのだろうか。