【d!】氷の海に沈む花 (ページ18)

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蜜夜ページ18

「そういえば、お連れの方は？」

「なに、つまらん男と来たさ。何してるかは知らん。貴女こそ、見ず知らずの男といるのを見られると不味い相手がいるのでは？」

「彼はきっと私のことなんか忘れてるわ。それより、あなたともう少しお話ししていたいの。」

黒い海を見つめたまま、Aはそっと頬をグルッペンの肩に寄せた。
グルッペンは後ろからAの腰に手を回し、その手を軽く自身へと近づける。
そして自分に近い方のAの耳にゆっくりと囁きかける。

「私は口下手だぞ。」

Aは潤ませた瞳をちらりと上げると、グルッペンの耳に唇を寄せる。

「言葉がすべてじゃないでしょう？」

二人は熱っぽく視線を絡ませ合う。
美しく整ったグルッペンの顔は扇状に染まっていた。

どろり、Aの中に見知らぬ欲が溶け出す。

出世欲でも女の矜持でも犯罪者への憎しみでもない。
それは恐怖の先に生まれた純粋な興味。
恋と呼ぶにはあまりにも危険な欲だった。

ーーー

グルッペンに連れられてAは滑るように早足で会場を出た。
ふわふわと、もやがかかったような興奮した頭の中にパーティーの談笑が通り過ぎていく。
この熱が消えてしまう前に、心がこの男に奪われている間に早く抱かれたくて仕方がなかった。

「まだ？」

溶けるような視線をグルッペンに向ければ、余裕あり気な笑みを返される。

「それなりの部屋だ、無駄に遠くて悪いな。だが夜は長い、焦る必要はないぞ。」

するりと背中に手を回され身体が密着する。
グルッペンのタキシードのベルベット生地がAの肌をくすぐり、また頬が赤く染まる。
その感触を求めてさらに身を寄せると、グルッペンは何も言わずに歩きを速めた。

絨毯が敷き詰められた人気のない廊下を早足で進んでいく。
グルッペンの部屋に到着した二人は、カードキーで扉を開くとなだれ込むようにベッドに転がった。

自身の四肢にAを閉じ込めたグルッペンはジャケットを脱ぐことすらせず、Aの首筋に次々と口付けていく。
ビクリと震え小さく吐息を漏らしながら、Aはグルッペンの肩や背中に手を這わせると、ギラリとした眼差しを向けたグルッペンが言った。

「美しい王女さま、何か飲むものを用意させるが何が好きだ？」

「じゃあワインを、あなたがお好きなら。」

グルッペンは耳元近くで軽くリップ音を立てると、蝶ネクタイを取って首元を緩める。
それから身体を起こし片手でジャケットとベストを脱ぎながら携帯端末を操作してそれを耳に当てた。