ティターニア ページ12
広い船内をぐるりと行けば、バーやディスコフロア、レストランや土産物店などきらびやかなものが次々と目に入る。
かなり集中すればコネシマの耳元から通信機による機械音や捜査員の声がかすかに聞こえた。
「今入った情報やと、マル被の他にもちょろちょろ小物の黒いのが紛れ込んどるらしい。俺らは構わず奴だけを追う。」
「了解。」
これだけ金の動くところには悪人が集まるのも当然だろう。
余計な視線を動かさず、笑みを浮かべながら船内の施設を確認していく。
そのとき、Aの目にある男が留まった。
趣味の悪いアクセサリーをつけた髪をべったりと撫で付けた男。
あれは指定暴力団幹部の男だ。
コネシマから聞いたとおり船内にはこういった輩もいるのかと、そう思った瞬間。
Aが踏み出した足はとらえるべき床に届かず、残された足は細く高いヒールによりバランスを失う。
どうしよう、倒れる。
そう思ったと同時に絡めていた腕が強い力で締められる。
「何しとんねん、アホ……あ。」
逸らした背中に大きな手の感触。
目の前にはコネシマが覆い被さるようにAを睨みつけている。
そしてコネシマに押しつけられ潰れているAの胸。
Aは驚いたままただただ黙ってコネシマの反応を伺う。
コネシマはたっぷり５秒ほど透ける布越しに谷間を凝視すると、ゆっくりと時間をかけてAから手を離した。
「さ、行こか。」
「ちょっと、なんなんですか今の。」
「何って、Aが段差でこけたん助けたったんやろ。」
「あら？しらばっくれるんですか。スケベ。
普段怖い顔ばっかりしてるくせに。」
呆れたAは組んでいた腕をぱっと離し、下着とずれてしまった胸を直すために早足でひとりパウダールームへ向かった。
「スケベちゃうわ。」
コネシマは吐き捨てるように言うが、ふと周りを見るとかなりの乗客の注目を浴びていたことに気づく。
まあ、めちゃくちゃええ身体やったな。
柔らかなAの感触を反芻し、壁際に移動し目を閉じて視線をやり過ごしていたコネシマだが、突然、心臓を掴まれたような感覚をおぼえ慌てて周囲を見回す。
胸をおさえて痛みに耐えるコネシマは、談笑する人々の向こうに遠ざかっていく金髪の後ろ頭をとらえた。
「おいマル被は今どこや。」
「2Gから2H客室棟へと移動中です。」
グルッペンを監視している捜査員が告げる。
記憶の中の船内図ではここは2Gで間違いない。
「しまった…まあ、どうとでもいけるか。」
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作者名：サハラ | 作成日時：2022年1月6日 12時
