″もしも″の一 ページ1
.
夜が好きだった。
ううん。
私は夜しか生きられなかった。
だから私の住む世界は、いつだって暗く静か。
本当はあの子のように外を走り回りたい。
本当はあの子のように友達を作りたい。
本当はあの子のように普通に恋をして…
でも、仕方ないの。
あの赤々と輝く太陽は私を焼き、あの黒々とした雲は私を溶かす雨を降らす。
ずっと、
暗く狭いこの場所が、私の居場所だった。
両親には感謝している。
足でまといのこんな
これ以上は望まないし望めない。
私だってわかってはいるの。
ただ、寂しかったんだ。
私は夜が好きだった。
夜は誰も居ない。
誰も私の事を見ない。
だから、外の世界を少しだけ。
流石に街の方へ行くのは危ないから。
裏山くらいしか行ける所は無いのだけれど。
それでも楽しかった。
たくさんの虫や鳥の声。
自分以外のものが近くに居る感覚。
風でざわめく木々…
どれもが新鮮で。
だから私は今日も裏山へ向かう。
もう、通い始めて数年経ったけど。
このドキドキと高揚感だけは相変わらず。
昨日は野生の熊と狐に会った。
狐は何回も会っているけれど熊は初めて。
多分裏山にはまだまだ私の知らない事が沢山ある。
今日はどんな夜になるのだろうか。
そんな出会いの期待を胸に、慣れた足取りで山へと向かった。
44人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
レイレイン - 素敵な話ですね。とても感動しました。ありがとうございます。 (2021年4月19日 20時) (レス) id: 5a04a92c31 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:沖田レイア | 作成日時:2019年4月1日 16時