″もしも″の八 ページ8
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「…いや、ありがとう」
え?と目をまん丸くする。
いや、だって流石にお礼を言ってくれると思っていなかったから。
「あ、あのいえ、私がしたくてした事ですから…」
何となく恥ずかしくなって下を向いた。
お礼を言われたのなんて、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
こういうの、慣れてないなぁ。
「…あ!あの、おにぎりとお水があるんですけどいりますか?」
「…いいのですか?」
もちろん、と荷物のなかからおにぎりと水筒を取り出す。
持ってきていて良かった。
怖がらせないようにゆっくりと近づいて座った。
その人は受け取ると笹の葉を取って食べ始めた。
…あれ?
食べ方から察するにあんまりお腹空いてなかったのかな?丸一日飲まず食わずで?
不思議な人だなぁ。
いや、私の方が数百倍気味悪いけれど。
…と言うか食事の時でもそのお面は外さないんですね。
食べ終わり飲み終わるのを待って、声を掛ける。
これが1番重要な事。
「あの、お怪我をしているなら手当させて下さい。このような化け物に介抱されるのはお嫌かもしれませんが…」
「化け物?あなたが?」
驚くその人に驚く。
私を化け物と呼ばずして何を化け物と言おうか。
「あなたは化け物ではない。たしかに髪や瞳の色は他の人間と違うかもしれないが、あなたは人間だ」
これがもし慰めの言葉なら私は笑ってありがとうと言えただろう。
しかし違う。うん、感だけど。
この人は
「……あなたは人間が嫌いですね?」
図星のように目を泳がせる。
結構わかりやすい人だなぁ。
「ふふふ、大丈夫ですよ。かく言う私も人間嫌いな化け物です」
いや、厳密に言うと嫌いとも少し違うのだけれども。
立ち上がった。
いい加減に帰らないと。
「日の出近いのでそろそろ帰ります。救急箱はここに置いておきますね」
待っててくれた狐の頭を撫でて、さて、帰り道も案内して貰おう。
…あ、そうだ。
くるりと振り返ってその人を見た。
「この山は化け物に優しいですから。気が済むまで居て大丈夫ですよ。
…私はあなたともっとお話したいので今夜もここに来ます。嫌なら逃げておいて下さいね」
それではまた後で。
ほほえんで今度こそ背を向けた。
視線が追っかけてくる。
どうだろうか、あの人は今夜もあそこに居てくれるのだろうか。
嫌がっているのを無理に会おうとは思って居ないけれどお話したいのは本音。
まぁでも何となく、あの人とは縁がある気がする。
ただの感だけど。
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レイレイン - 素敵な話ですね。とても感動しました。ありがとうございます。 (2021年4月19日 20時) (レス) id: 5a04a92c31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沖田レイア | 作成日時:2019年4月1日 16時