″もしも″の十四 ページ14
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…ノック音がする。
きっとお母さんだ。起きなくちゃ。
でも、起きる気が起きない。
いいよね、一日くらい。
のんびり夕方まで寝ていても。
だんだんとノック音が遠のいてゆく。
この浮遊感、嫌いじゃない。
その時ガチャギギぃーと扉の開く音。
同時に訪れる太陽の匂いに意識は無理矢理にも覚醒した。
だって太陽は怖いもの。
布団は光のささない蔵の奥の方に引いてあるからまだ安心だけど。
「お前!縁談を断ったらしいな!誰のお陰で飯を食っていられていると思っているんだ!」
いきなり怒鳴られて胸ぐらを掴まれる。
珍しく私の事が大嫌いなお父さんが来たから何事かと思えば、そんな事か。
「なら、出ていきます」
真っ直ぐ目を見て告げると流石に面食らったのかお父さんは目を丸くして口をパクパク。
魚みたい。
「こ、ここから出てどうやって生きてゆくと言うんだ!この馬鹿者め!」
「どうとでもなりますよ。だって私は化け物の生まれ変わりです。それに例え人の世で生きられなくても…」
その先の言葉を飲み込んだ。
化け物同士でなら笑って暮らせる、なんてこんな薄汚れた人間に言いたくなかったから。
「この縁談が決まれば私達にも金が入る。親孝行しようとは思わないのか!?」
「…お母さん、
憎んで下さって構いません。でも、これだけは言わせてください。
産んでくれて、ありがとう。」
黙って苦しそうに成り行きを見守っていたお母さんは驚いたように数秒固まったあと、抱きしめてくれた。ほんとうにこの人はいい人だ。
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レイレイン - 素敵な話ですね。とても感動しました。ありがとうございます。 (2021年4月19日 20時) (レス) id: 5a04a92c31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沖田レイア | 作成日時:2019年4月1日 16時