″もしも″の十三 ページ13
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蔵の扉を何とか開けた達成感と疲れで大きく伸びをした。
雨季を過ぎたこの土地はむっとする暑さに包まれていて。もう夏だなぁ。
「……………!」
「……………!」
ふと屋敷の方から声が聞こえた。
怒鳴りあっているよう。
聞き耳をたてる?
…いいや。虚様に会いに行こう。
そっちの方が絶対に楽しいから。
さあ、今日はなんの話をしようか。
長い時間を過ごしてきたという虚様は物知りで。
私も知識だけは一丁前にあるけれども、虚様はそれを生き生きとわかりやすく語ってくれる。
私にとって字の羅列でしか無かったものがまとまって、なんというかな、実感を持って定着したような。
うううん、言葉で表すのって難しい。
だから、それをやってのける虚様はすごいと思う。
教師、なんて向いているんじゃないかな。
「教師、ですか」
灰色の瞳がほのかに揺れた。
動揺、希望、抵抗。
それらの感情交差だろう。
本当に虚様はわかりやすい。
いや、これを素直というのか?
「ええ、人に何かを教えるの好きでしょう?」
「経験した事が無いのでなんとも」
「いっつも私に外の世界の事を教えてくれてるじゃないですか」
それはどうです?面白いですか?
「…面白い、というか楽しいですけど。でもそれは相手があなただからですよ、Aさん」
驚いて、目をぱちくり。
1秒遅れで笑った。
「お世辞画上手いなー虚様は」
「…本気、なんですけどね」
驚いて、制止。
十秒遅れで理解した。
「……自惚れますよ?」
「是非、お願いします」
どちらともなく、すっと顔が近づいた。
多分、ほっぺたはまっかっかなんだろうな。
だってこんなにも熱を持っているのだから。
星のキラキラ光る下で、静かに唇を。
荒い呼吸音の中、その頭を抱いた。
長くてサラサラな髪を撫でると虚様は微笑んで私の白い髪に口付けを落とす。
「あっ!」
突然激しくなった動きに、ただ夢中で虚様にしがみつく。
体の中の方でこぷこぷと熱い種子を感じながら、私は意識を飛ばした。
星の綺麗な夜だったと思う。
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レイレイン - 素敵な話ですね。とても感動しました。ありがとうございます。 (2021年4月19日 20時) (レス) id: 5a04a92c31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沖田レイア | 作成日時:2019年4月1日 16時