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じゃあ、と各々電話を切る。
俺はほうと息を吐いた。
いや、どうにかなりそうだ。
万斉へ送るメールを打ちながら俺はぼんやりとAと春風の生活に思いを馳せていた。
食費を、月三万で怯えていたのだ。
一体どんな暮らしで、どんな男を夫としていたのだろうか。いや、それは碌でもない男に違いないが。
ふとソファーに寝ていた春風の様子を見ようとリビングを覗くと、春風はソファーに座って、俯いていた。
万斉へメールを送信すると、俺はゆっくり近づく。
春風の不安そうな瞳が、俺を見詰めた。
どうしようもなく抱き締めて、大丈夫だと言ってやりたくて。
でも、どういう風に抱き締めればいいか、どんな言葉をかけてやればいいか、なんてわからず。
結局少し迷ってただ、頭を撫でた。
「しんちゃん……」
「ん?」
「おかあさん、かえってくるかな……」
「ああ、絶対帰って来るさ。お母さんがお前の事を置いて、どっかへ行っちまう訳ねぇだろ?」
頭を撫でながら笑うと、目尻に涙を溜めながら少しだけ笑った。
ああ、顔はAと似ていないが笑い方がそっくりだ。
「……前によ」
「ん?うん」
「前に本屋で言ったろ?子供はいい子にしてるとご褒美が貰えるって」
「ああ!うん!おしえてもらった!」
「俺はよ、大人にもご褒美があってもいいと思うんだよな」
「うーん?うん、おとなもあっていいとおもうよ!」
春風は話の意味がわからないのか不思議そうに首を傾げた。
「いやなに。お母さんが帰ってきたらよ、俺と一緒にケーキを作らねぇか?お母さんはいつも頑張ってくれてるだろ?それのご褒美に」
春風は目を輝かせると、大きく頷いた。
「おかあさん、よろこんでくれるかな!」
「そりゃもちろん」
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神桜(プロフ) - 新作ありがとうございます!!! (2021年8月27日 16時) (レス) id: 86ea1c42a8 (このIDを非表示/違反報告)
沖田レイア(プロフ) - 通行人Fさん» コメントありがとうございます!好きと言ってくださってとても嬉しいです!大変励みになっております!コメントありがとうございましたぁ!!!! (2021年8月22日 18時) (レス) id: b13dceedcd (このIDを非表示/違反報告)
通行人F(プロフ) - ヒェッすきです、、、(唐突)毎回良いお話をありがとうございます、、、(尊死) (2021年8月22日 10時) (レス) id: 655b6dcc15 (このIDを非表示/違反報告)
沖田レイア(プロフ) - 神谷さん(ヅラ買ってくる)さん» 神谷さん様!いつも面白いコメントありがとうございます!(実は下書きにし忘れて私自身も不意打ちを食らっていたとは言えない)不器用だけど優しい高杉さんになるように頑張ります!コメントありがとうございます!! (2021年8月17日 15時) (レス) id: b13dceedcd (このIDを非表示/違反報告)
神谷さん(ヅラ買ってくる) - し、新作…!不意打ち食らいました(知るか)優しそうな高杉くん…え、しゅき…あの、無料で見ていいんですか?貢ぎたいんですが。更新頑張ってください! (2021年8月17日 14時) (レス) id: 9406ab1259 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沖田レイア | 作成日時:2021年8月17日 13時