49匹 :回想 ページ50
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あれは何年前だったか。
それでも昨日のようにはっきり思い出す。
雨の降るあの日、私を荷物のように抱えた馬鹿の体温を。
言葉、を。
「別にいいだろ。こいつの飯代は俺の給金から出す」
「そんな足でまといが船に乗せるのを許すほど、この鳳仙は甘くないぞ」
傘に雨が当たって、激しい音がしていた。
「……一年だ」
「なに?」
「一年して、コイツが役立たずのままなら、何処へなりとも売ってしまえばいい。その金は全部、アンタらにやるよ。その一年間の飯代だって俺が出す。そっちに損は無いはずだ」
私は思わず首を捻って、重い頭を上げた。
男共を真っ直ぐに見つめる青い瞳が輝いていて。
ああ、綺麗だと。思わずにはいられなかったのだ。
男が……鳳仙がため息をついた。
「なぜそうもその者の肩を持つ」
「惚れたんだよ、コイツの目に」
強者の目だ、と不敵に笑う青い目の少年に、鳳仙は惚れたのなら仕方ない、と豪快に笑った。
そうして、私を見て、言うのだ。
「わかったか小娘。一年だ。一年で使い物にならなければ貴様の運命はただの孕袋と成り果てるだろう。その覚悟はあるか?」
だから、私は言ってやるったのだ。
霞む視界で睨み付けて、歯を見せて笑った。
「ははッ、上ッ等……!」
鳳仙は満足気に目を細めると、よかろうと頷いた。
「阿伏兎、コイツを風呂に入れてやれ」
「あぁ!?なんで俺が!?」
「お前はよく神威のお守りをしているだろう。一匹増えるだけだ」
「〜〜ッ!ああもうクソっ!わあったよ!おら貸せ、ガキンチョ」
そうしてふわりと体が浮いて、大きく逞しい腕にすっぽりと収まった所で、私は意識を手放したのだ。
「……どうしたの」
「ううん、なんでもないわ」
私は薄く笑いながら、今度は私が隠れるように神威の肩口へ顔を埋める。
「……もっと、もっともっと、強くなる」
「はは、楽しみにしてるよ、A」
私はニヤリと笑いながら頷いた。
女という性別で、この動かない足で。
どこまでだって行ってやろう。
だって私は春雨第七師団参謀なのだから。
ただまっすぐ、自分の道をゆくのだ。
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アリア(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます!テスト頑張ってください! (2021年6月10日 23時) (レス) id: 500f657705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沖田レイア | 作成日時:2020年10月30日 0時