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金木犀の匂いに誘われるがまま、ふらふらとあちこちを歩く。

新幹線なるものが作られて、世界は随分と狭くなった。故郷である萩まで三時間ちょいで着いてしまうのだから。

丁度二ヶ月前にもここに訪れて、高杉の誕生日を祝ったんだっけなとぼんやりと思いつつ、ついでに墓の周りでも掃除してやろうと松下村塾跡まで歩みを進めた。

ここにいるのは、ただの依頼だ。
その依頼ももう終わり、あとは帰るだけ、なのだが。
まあ、多少のんびりしたところでバチは当たるまい。

懐かしい道を、あの頃から違う視線で見るのはなんだかむず痒い。
あの頃頭の上よりあった木や塀が、ずいぶん低い。

畦道を、いつか駆けた道をゆっくりと歩く。
目をそらすしか出来なかった過去も、なんやかんやあった今では、見据えて微笑めるくらいの思い出に昇華されていた。

崩れかけた塀から覗き込むと、ぶわり。
優しく暖かい風が吹いて、頭が馬鹿になりそうな程
濃ゆい、秋の、金木犀の香りが辺りを包む。


「……は、こりゃ」


すげぇ。
二つの墓を囲むようにして植わっていた金木犀が見事に満開で。


「は、はははは」


頭が馬鹿になりそうだった。


「んだよ、誕プレのつもりかよ」


随分と緩くなった涙腺からポロポロを涙が零れる。


「ああ……いい匂いだ。甘くて、俺の好きな匂い」


墓の前に膝をつく。
笑ってやりたいのに、笑顔で言葉を返したいのに、
涙は、止まらない。



「祝う人が居なけりゃ、意味がねぇんだよ、高杉」

終わり ログインすれば
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作者名:沖田レイア | 作成日時:2020年10月10日 1時

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