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「おい銀時。てめぇ、ちゃんと歩かねぇか」
ふらふらと千鳥足で足を縺れさせる俺の腰を慌てて支える高杉の手に、気持ち良く酔いつつも不思議な心地でいた。
そもそもこの男は俺に対してこんなに優しくない。
むしろキツイくらいだ。
酔い潰れて部屋に帰れない俺を、介抱しようだなんてそんな殊勝な事考える奴じゃない。
さては偽物か?と酔っ払い特有の意味不明な思考に至るが、いや、そう言えば今夜の宴会は俺の誕生日会だった事を思い出す。
そうかそうか。いけ好かない野郎でも誕生日ぐらいは優しくしてやろうなどという心も高杉にはあったらしい。
しかし不思議なものは不思議なのだ。
大怪我をしてる訳でも無いのにコイツに優しくされるのは。
廊下の冷たさが足の裏から伝わってくる。
酒で火照った体には丁度いい冷たさだった。
「……今年は」
「あ?」
「あの甘っこい匂い、しねぇな……」
俺のつぶやきに、高杉は少し考えたあと、ああと納得したように頷いた。
「金木犀のことか」
「そ。毎年、この時期にゃそこらじゅうで咲いてたのによ」
「そりゃ、しゃあねぇだろ。ここいらの木はほとんど松か杉だ」
そう、高杉の言う通り。
今使ってる神社だか寺だかだっただろう廃屋の周りの林は松か杉か竹か……なんにせよ、甘い匂いのする物はひとつも無く。
「……あの匂いがねぇと、なんだか俺の誕生日じゃねぇみてぇだ」
「は、どうせ帰ったらまたそこらじゅうに咲いてやがんだから、今年は諦めな」
「そう、だな……帰ったら、また」
そう言って口を閉ざすと、苦ではない静寂が辺りを包む。
俺はほんの少しだけ高杉に体重をかけた。
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作者名:沖田レイア | 作成日時:2020年10月10日 1時