よそむ ページ46
.
その神は、大きかった。
ふらふらと玄関を開けた瞬間、男は遠吠えをしながら、身を震わせて家よりも大きな大神となり。
その神は、強かった。
流石はあの土地を納めていただけある。
荒御魂となり、ただ暴れるだけのものになっても並の念力では跳ね返されるし、その咆哮だけで巳厘野衆と結野衆から選りすぐった人選の数人が倒れる程だ。
『いずれはきちんと祓われてやるよ。約束しよう。だから、しばらく見逃しちゃァくれねぇかい』
わしは札を構えて臨戦態勢になりながらあの夜の会話を思い出していた。
『それを、信じろというのか』
『俺は嘘をつけねぇよ。神だからな』
黒い犬のような耳を頭から生やした男は月明かりで紫色に輝く髪を緩く風に揺らしながら笑った。
『俺ァ近々天導衆を……神殺しの元締を祟り殺す』
『っ!それを聞いて逃せるか!』
『神は怒っている』
男はキッパリと言い放った。
『あの土砂崩れを見ただろう。神が消えただけであれだぞ。怒りが人々に向いたら、どうなると思う?そしてそれが、お前らだけで食い止められると本気で思っているのか?』
痛い所をつかれ、わしは唇を噛む。
その様子に男はニヤリと笑った。
『だから、恨みの対象を天導衆だけに絞る。
……だが、それにゃあ今の俺はちと弱ェ』
だから神を食うのだと、祟ったという穢れに心を蝕まれながら苦しむのだと彼は楽しそうに言う。
『その時に、俺を殺して欲しい。俺で無いものになってまで生きていたいとは思えないんでな』
そう笑った神の顔が、あまりにも悲しい笑顔だったから。
俺は思わず頷いてしまったのだ。
約は果たさねばならぬ。
神が、自らを引き換えに守ったもの達を守り通さねばならぬ。
この結野晴明、命に変えても。
一度、目を閉じた。
そして再度大神を見て、叫ぶ。
「総員、全力を持って荒御魂を昇華せよ!」
108人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
美結菜 - とても面白かったです!完結おめでとうございます!沖田レイアさんの作品は全部見ました。とても好きです! (2023年2月11日 23時) (レス) @page50 id: f842e5f119 (このIDを非表示/違反報告)
ユイ - うわああああ好きぃ...素敵な作品ありがとうございました!! (2022年11月27日 21時) (レス) @page50 id: 546cca6b35 (このIDを非表示/違反報告)
沖田レイア(プロフ) - 小鳥遊。さん» そう言って頂けて嬉しいです!(国語の成績は5では無いっス……)愛してくださってありがとうございます!笑 (2020年11月24日 0時) (レス) id: b13dceedcd (このIDを非表示/違反報告)
小鳥遊。(プロフ) - はァァァ今まで見てきた中で一番綺麗な終わり方ァァァ…絶対国語の成績5…愛してます… (2020年11月23日 23時) (レス) id: f219b8854f (このIDを非表示/違反報告)
沖田レイア(プロフ) - 小鳥遊。さん» ぐへへ……ありがとうございます! (2020年11月20日 18時) (レス) id: b13dceedcd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:沖田レイア | 作成日時:2020年10月4日 7時