慈しみ ページ41
「…ではな。今日の事は気にするな。」
『……お気をつけて。』
そう言い店を出た叔父様。私は彼の背中を只、眺めることしか出来なかった。悪魔___昔の私の通り名だ。尤も本来のものとは違うが時が経つに連れ略称となってしまった。
組合に政府、消えた筈の情報が何故今になって又?皆に知られたら如何しよう。軽蔑されるのだろうか。嫌われるのだろうか。
『ッ、はぁ…ッ…』
蒸し返してくる其れに吐き気を催し思わず足を止める。周囲の人々は変なものでも見るようにして通りすぎていく。
…嗚呼、世の中とは残酷なものだ。助けたとて見返りが帰ってくるとは限らない。
「…福沢さん、立てますか。」
『…、条野、さん?』
蹲っていた私に手を伸ばしてくれたのは先程の彼で。驚きつつもその手を取ると近くの公園まで連れていってくれた。
『あ、済みません。幾らですか?』
「…、怒っていないのですか。」
『……、…怒る?』
「…先程の私の発言を忘れられたので?」
彼の言葉に私は一言、嗚呼と帰すと蓋を開け一口水を口に含んだ。条野さんは私が怒っていると思ったらしい。
『仮に私が怒っていたとして例を云わぬ程、恩知らずでは在りません。』
「…そうですか。」
その後、条野さんは隣に腰掛けたかと思うと木からの木漏れ日を鬱陶しむ様に手を上げた。
暫くの無言の時間は何とも形容しがたかったが私の心を落ち着かせるには十分だった。
「…私は貴女の事を誤解していたようです。」
『……、如何う意味ですか?』
「其のままの意味ですよ。貴女の心音を聴けばどんな人間か、なんて直ぐに分かったのに。」
悪戯が過ぎましたね。そう云い立ち上がった彼の袖を思わず引っ張る。驚いた様に振り返った条野さんに私は目を伏せ、言った。
『私、どんな心音をしていますか。』
「…綺麗な心音です。聴いているだけで心が安らぐ。」
『……、綺麗、ですか。』
「……貴女が何を考えているのかは知りませんが一つ、云っておきます。」
「その優しさは時として残酷です。貴女は自分の心は汚い、とでも思っているのでしょうが……真逆です。」
「__貴女は綺麗過ぎる。」
『……、』
其れだけ云い深く帽子を被り直した彼は何処かへ行ってしまった。私はいつの間にか熱を持った左手を開く。
『…あ、お金……。』
呟いた時にはもう遅かった。
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冬蜜柑美味い - テンポ…!褒められるの初めてです!!がんばります!! (2月2日 19時) (レス) id: 161dd8d243 (このIDを非表示/違反報告)
笹の葉 - 話のテンポが好きです!頑張って下さい!!! (1月27日 15時) (レス) id: 8035cab69c (このIDを非表示/違反報告)
冬蜜柑美味い - きんにくふぇち@他力本願。さん» ですヨネ!…でもそういうポジのお方グッズが少なくて…あ、涙が…… (1月15日 22時) (レス) id: 05bec6341d (このIDを非表示/違反報告)
冬蜜柑美味い - アキハさん» 超、嬉しいのですが!?頑張ります!! (1月15日 22時) (レス) id: 05bec6341d (このIDを非表示/違反報告)
きんにくふぇち@他力本願。(プロフ) - そりゃ社長好きっスよ……というかイケオジ好き。 (1月15日 21時) (レス) @page22 id: 5ebe7ae459 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬蜜柑美味い | 作成日時:2024年1月5日 11時