狼 ページ3
コンコンッ
ドアから軽い音がした。
ノックされたのだと認識し､ドアノブに手をかける。
右側に引こうとしたが、突然重みが消えた。
「Aさん…?いらっしゃいますか…?」
(あ…)
先程の医者、神宮寺先生だ。
自分で開ける前に彼が外側から開けたので、ドアが軽くなったのだ。
「あの」
声をかけると、視線がこちらを向く。
彼の澄んだ青い瞳が、しっかりと私を捉えた。
彼はふわりと笑うと、健康そうな唇を開いた。
「そちらにいらっしゃったんですね。」
「はい、あの…何かご用でも?」
「いえ、特に用があったわけではないですよ。」
何しに来たんだこの人。
今のが伝わってしまったらしく、くつくつと抑えた笑いが聞こえる。
「あなたとお話でもしようかと思って。」
「は、あ…」
どう返していいのかわからず、曖昧な返事をする。
「病室、ここだったんですね。一度通りすぎてしまいました。」
ああ、先程の足音は彼だったのか。
黙ってばかりいるのもどうかと思ったので、話題を振ってみることにした。
「先生、私を見て、どう診ますか？」
伝わっただろうか。
「どう、診る…?」
彼は一瞬キョトンとしたが、すぐに元の笑顔に戻った。
いや、元の笑顔ではなかった。
にこり、というよりは、にやりに近かった。
まるで獲物を前にした狼のような、
面白いものを見つけた冒険者のような。
あまりの目つきの鋭さに、身を硬くする。
「なるほど…興味深い…」
彼が何かを呟いたが、聞き取れなかった。
「え…っと」
「うん、ここに来て正解でした。今日は失礼します。返答はまた後日…」
「あっ、はい」
それだけ言うと、彼は病室を出ていった。
去り際の表情は、初めと同じ笑顔だった。
私の中で、「彼」は「先生」へと昇格した。
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作者名：三矢月 春 | 作成日時：2020年12月13日 0時
