人間AIの姫とヤクザの王子【碧棺左馬刻】 (ページ12)

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The edge of despair 1 ページ12

Aside

一日中厨房にこもっていると時間の感覚がなくなる

ふと時計を見ると針は7時を指していた

「皇さん、今日はこれでいいですよ。ありがとうございました」

『分かりました、お疲れ様です』

他の人より先に上がって、夜の街を歩く

キラキラと光る街灯が幻想的な風景を魅せる

海風にのって流れてくる潮の香りはこの街に住み始めてからもずっと変わらない

バスに乗り、スマホをいじっていると昼間に東方天総理の演説があったというニュース記事を見つけた

事前予告がなかったから緊急放送だったのだろう

記事に対するコメント欄にはこの演説に対する批判的な意見が多く寄せられていたがそれを読む気にもならず、スマホの電源を落とした

バスを降りて帰路に着く

街は日が沈んでいるのにもかかわらず明るく、生き生きとしていた

『ただいま……っ！？』

鍵を開けて家の中へ入ると俊介が廊下を通りかかった

ただいまと声をかけると還ってきたのは「おかえり」ではなく「なんで帰ってきたんだよ」という冷たい言葉だった

私を見る目がどんどん鋭くなり、しまいには玄関のドアに押し付けられる始末だ

『俊…介？どうしたの』

「どうしたのもクソもないだろ。なんで帰ってきたのかって聞いてるんだよ。姉さんも手術を受けた女なんだから中王区の役人どもと変わらないだろ、だからもうこの家に居る権利はないって言ってるの」

『ど、どうしていきなり…』

「見なかったの？東方天総理の演説。人間のAI化社会へ突入しますとかなんとか言ってさ」

『でも私は他の人とは違って…』

「五月蝿い！とにかくこの家から出てって、迷惑なんだけど」

突然のことに驚いて言葉も出ない

どうしてこんなことに…

すると後ろからお父さんが形相を変えて近づいてきた

「なんでお前がいるんだ、さっさと出てけ！中王区の駒でしかない女なんかこの家において置けるかよ。」

極めつけは父の言葉だ

お母さんがいなくなってからお父さんは女の人に対しての信頼度が格段に低くなった

娘である私に対してはそこまでではないけれど

そもそも女性中心の社会に変化し、男性の税金が女性の10倍にもなれば女政権なんか信用ならないと誰だって思うだろう

だからこそ私だけでも女性の評判を良くしようと家の中でも外でも男性を思いやる行動をしてきたつもり

でもそれは東方天総理の思想に反している

この世界を変えたいと思うのは私だけじゃないはずって思ってたのに