人間AIの姫とヤクザの王子【碧棺左馬刻】 (ページ11)

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Entering the AI society 9 ページ11

Aside

「行ってらっしゃい、姉さん」

『行ってきます』

俊介はいつも忙しいのに見送ってくれる

お父さんは毎朝早くて始発の電車に乗って会社へ行くから朝ごはんは私が作る

というか家の炊事は私の担当

お母さんがいた時は家のことはほとんどみんなお母さんがやってくれてたけど今はそうも行かない

選択は俊介、掃除はお父さんとそれぞれで役割分担をしている

朝日が水面に映ってキラキラと輝いている

その様子を眺めながらバスに揺られていた

毎日見る風景なのになぜだか全く飽きない

Closedと書かれたプレートが吊るされているドアを開けて店に入る

店内は開店の準備に追われ店員がバタバタと動き回っていた

『おはようございます。』

「げ、皇かよ」

「あいつ、例の手術受けてきたらしいぜ」

「まじかよ…、関わるのやめよっかな」

私が手術を受けたことが知れ渡っているようであちらこちらからひそひそ話が聞こえる

そんな声を無視するように更衣室に入り着替えを済ませ、厨房に立つ

今は女性中心の社会とはいえ、この店では立場が逆だ

「8番テーブルにタスマニアビーフのステーキトリュフ添えを一つ」

「34番テーブルにアジアンチキンライス3つ」

「57番テーブルにコーヒーとバナナのパフェ一つ」

『かしこまりました』

この店は朝からとても賑わっている

若者から子連れ、お年寄りまで幅広い年代の客が来る

お店が落ち着く時間帯は少ない

常に満席状態だ

私がこの店に入りたての頃はウエイトレスが受けてきた注文を確認しながら料理を作ることが大変だった

注文を聞くのが精一杯で食材を落としたり焦がしたりと散々だった

慣れれば簡単なものだがその技術を習得するのにはそれなりに時間がかかる

この店には調理人がたくさんいて一人ひとりに得意分野がある

日本食、アジアン料理、イタリアン、フレンチなどそれぞれの道を極めたスペリャリストが集まっている

その中で私は中華料理を担当している

小籠包や饅頭類を蒸篭で蒸し、大きな鉄鍋でご飯を炒める

豆板醤や五香粉など中華料理独自の調味料を巧みに操り、具材に味をつけていく工程は料理人にとっては至福のひととき

自分の作った料理を他の人に食べてもらえるこの喜びは何よりの原動力になる

厨房には様々な料理の匂いが漂っていた