出会い ページ2
北side
まだ少し、肌寒い空気が吹く4月の入学式。
俺は、先生方に配られた桜のコサージュを、左の胸ポケットにしっかり固定して、形を少し整えた。
式が終わると、皆それぞれの教室に案内された。
外はまだ少し寒くても、教室内は何十人も居て、密閉されているため、空気がほんの少しだけ暖かく感じる。担任の先生が入ってきて、一人一人の自己紹介タイムが始まった。
俺は1番窓側の席だった。窓は拳3つ分程開いていて、緩やかな風に乗って運ばれてきた少し肌寒い空気が、暖かい空気が充満しているこの空間に流れ込んでくるのが心地が良くて。窓の外でひらひらと散っていく桜に見惚れていたら、いつのまにか自分の番が回ってきた。
「笛根九中学校から来ました。北信介です。1年間よろしゅう。」
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入学式からちょっと経って、部活紹介が終わり、1年は体験入部期間に入った。先輩は怒る時はきちんと怒ってくれて、褒める時はきちんと褒めてくれる。そんな、メリハリのある良い先輩方ばかりで、練習も充実していた。
いつも通り体育館倉庫を片付けようとしたある日、電気が点いていたので、中を覗き込むと、人が居た。
その人は平均台を椅子代わりにしながら本を読んでいて、耳にはイヤホンが刺さっている。俺がガラガラと音を立てて扉を開けても、全く気づいていない様子。日が暮れ、下校時刻も近かったので、俺は彼女の肩をポンポンと叩いた。彼女は不思議そうな顔をしながら、俺の目をじっと見つめている。イヤホンを外した後、彼女は首を傾げながら
『どうされたの?』と聞いてきた。
「もうすぐ下校時刻です。それに、ここ掃除せなあかんので、ここ、出てもらっても構いまへんか?」
彼女は少し申し訳なさそうに、『ごめんなさい、つい夢中になってしまって…すぐ退きますね、すみません。』と謝ってきたので、少し、気まずさを感じずにはいられなかった。帰りの荷物をしまいながら、垂れた髪を耳にかける彼女が、入学式の時にに見た桜の様に儚く、美しく見えて、胸が高鳴った。そして思わず、
「あの、お名前聞いてもええですか」なんて。
でも、ここで聞かなかったら、多分一生聞けない。そう思った。
彼女は手を止め、俺の方を向いて、
『望月Aです。君は?』
「俺は、北信介です。」
これが、俺と彼女の出会いだった。
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作者名:とまと | 作成日時:2024年3月29日 1時