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きっとそれに意味は無く ページ45

吹くはずのない風が頬を撫でる。
その感覚の薄気味悪さよ!
息を吸っているのさえ辛い、そもそも、自分が元から息をしているのかすら疑問に思う。

「それは…冗談、か?」

途切れる息で、薄浅葱に問い掛ける。
彼の目を見ると、彼の光の灯っていない目を見ると、どうにも冗談とは思えない。
笑えない話だ。

「冗談だったら良いんだけどな。」

薄浅葱が笑う。

「お前が記憶を失った話も、こんな現実も。全部冗談だったら。」

今にも消え入りそうな声を聞くと、言葉が出なかった。
どれほど彼が俺を好いていたのか、大切に思っていたのか。それがあの一声で、全てとは言わないが、ほとんど理解出来た。

「…俺も、こんな現実はうんざりだよ。」

自嘲めいた笑みを浮かべる。
隣に座った薄浅葱、否、クリソコラは驚いたように目を丸くしていた。
自分から言い出したのに、なんだその顔は。例えれば目の前で仲間が砕け散ったような顔とでも言うか。

「アマゾナイト…、それじゃあ…。」
「お前と月の砂になるっていうのも、悪くは無い。」

笑う。笑う、なぜ笑うのかはわからないが、ただいい気分だから笑う。
そう、それだけでいいのだ。
笑うのに理由なんて必要ないし、クリソコラと共に生きていくのも砕けていくのも理由は必要ない。
ただそうしたかったから、そんな気分だったから。それだけでいいのだ。

「さ、お前の手で終わらしてくれよ。」

首に、手が置かれる。
暖かくも冷たくもない手だった。それでもどこか、心地いいと思える。

「…お前硬いなぁ、俺の方が先に砕けるぞこれ。」

とは言うものの、もう首元には幾つものヒビが入っていた。
随分な力だなと、笑みが漏れる

「ふ、お前全然砕けてないじゃねぇか。」
「まぁ、片手は合金だしな。」

しばらく、沈黙が居座る。
自らの首が欠けていく音しか聞こえない。
どうにも、気まづい空気だ。

「……なぁ、アマゾナイト。」

沈黙を掻き消したのは、クリソコラだった。

「この服やっぱ似合ってないよな。」

本日2度目の質問だ。
なぜ、そうも服を強調してくるのがわからない。
それでも、その問いに意味があるようには感じられる。どこか、懐かしさも。

「まぁ…そうだな。話しててわかったんだが、お前の乱暴な性格とは、大違、いだ。」
「砕くぞ。」

クリソコラの顔は言葉と相反して、嬉しそうに微笑んでいた。

「もう今砕いてるだろ。」

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作者名: | 作成日時:2018年6月3日 20時

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