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記憶の欠片は捨て去って ページ36

「さて、出来ましたよ。動きますか?」

深緑の腕をまじまじと見つめる、なんだか不思議な感覚だ。
一応動かす事は出来るが、どこか動きがぎこちない。

「まぁ、そのうちしっかりとしますよ。私は三徹目で疲れてるので少し休みます、では。」
「あぁ、ありがとう。」

言うと、何故かルチルは驚いたような顔をする。
だがすぐに顔を背け行ってしまった。
あの顔が引っかかるが、別に気にする事ではないだろう。



「アマゾナイト!」

自分の手を水面に映したりして見ていると、突然ダイヤが叫んで駆け寄ってくる。

「腕無くしたって聞いて心配したのよ。その腕…クリソプレーズ?」

俺の右手を手袋がはめられた手で触れながら、ダイヤは言う。
やっぱりクリソプレーズという名にはどこか聞き覚えがあるようなないような、そんな気がする。

「そうだ。」
「へぇ〜! クリソコラと似てる名前ね、色も綺麗。」

クリソコラ、その名前が懐かしく大切なものに思えて眉を歪める。
確かにその宝石は俺の大切なものだったはずだ。だが、どうにも思い出すことが出来ない。
色も声も見た目も。
それが物凄く怖い事だと感じ、震えた声でダイヤに問いかける。

「……クリソコラって、誰だ?」

青に光る水面すら、懐かしく感じた。

「っ…。クリソコラは…クリソコラはあなたの大切な宝石……でしょ?」

悲しみに歪んだ顔で、ダイヤは言う。
大切な宝石を忘れてしまうなんて、本当に最低な自分だ。
_それでもまた会えば、思い出せるかもしれない。

「そのクリソコラは、今どこに。」

問いかける。

「月よ。」

今にも崩れそうな、言葉にし難い声でダイヤは答えた。
そこで決まったのだろう。クリソコラに会うために、取り戻すために月へ行くという願いは。

___


__今年で、あの願いが決まった日から102年も経つ。
もちろんクリソコラの事は思い出せず、月へ行く手掛かりすら見つかっていない。

「本当に、また会えるのだろうか。」

網越しに見える月の光を浴びながら、言う。
いいや、弱音を吐いていたらダメだ。
俺は出来ると、信じなければいけない。

大きなため息を吐いて、自室の寝床に座り込む。

眠ろうかと考えたその瞬間。ルチルが慌てた様子で部屋に入ってきた。

「フォスが、起きました!」

その知らせに、言葉が出なくなる。
もう無理だろうと思っていたのだ、こんなに嬉しい事は無い。

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作者名: | 作成日時:2018年6月3日 20時

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