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眠る深緑 ページ35

「……ッ…は?!」

目覚めを出迎えたのは、体の一部が欠ける音。
俺が1番嫌いな音だ。

見ると、空に浮かぶ月人。
そして月人が放った矢によって割れ、その反動で今まさに海へと落ちていった右腕。
これは最悪の展開と言っても過言では無いだろう。

生憎、剣は持ってきている。
だが身体が砂に取られ、中々思い通りに動けない。
それに加えて右腕も無く、起き上がろうにもバランスが取れない。

二撃目が放たれる。
咄嗟に剣を手に取る事は出来ず、全てを諦め歯を食いしばった。刹那。
赤が、視界へと入ってくる。

「っ…シンシャ。」

そういえば初めて会う宝石だったか。
それでもクリソコラの記憶で名前等は知っている。

「名も知らない新入り! ここで何をしている!?」

毒液が、矢を防ぎながらシンシャは叫ぶ。
顔は悲痛に染まっていた。この顔を、俺は何回も見た事がある。
辛く苦しそうな顔を、そして今にも諦めそうな顔を。

「…すまない。」
「ああもう…っ、また夕暮れ時に! 俺以外の宝石目当てで! くそっ…!」

発言を聞く限り恋する乙女にしか聞こえないが、もちろんこんなことを言う理由は分かっている。
俺にはどう返すことも出来ずただ目を伏せた。

目を離しているすきに、いつの間にか毒素は月人を包み込んでいる。
武器を持って手伝おうとしなかった自分に、今更気付く。
心底、自分を壊したくなった。

「……はぁ。次からはこんな時間に出歩くな。」

大きなため息を吐きながら、シンシャはこちらを見て言う。

「そう、だな。気を付ける。」
「…右手は、そこら辺の宝石でもルチルの所に持って行って付けてもらえ。じゃあな。」

そう言って、シンシャはその場を去っていく。
名前を伝えるのを忘れたが、相手は気にしてもいにさそうだったしいいだろう。


辺りを見渡す。
ほぼ金しか無かったが、お陰で色が違う宝石はわかり易かった。
深緑色の大きさもそこそこある宝石に、手を伸ばす。

「クリソプレーズか。」

なんとなく、懐かしい響きがする。
これに付ける事に決めては、クリソプレーズの塊を持つ。
流石に少し重いが、学校に着くまでの辛抱だ。


___



「あーなーたーはー! うっかり右手を紛失するなんて考えられません!」

ルチルが怒鳴ってくる。
言い返す事は出来ず、無言でルチルから目を逸らした。

「まぁ…いいでしょう。じゃあ形を整えるので待っててください。」
「了解した。」

記憶の欠片は捨て去って→←空白の1コマ



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作者名: | 作成日時:2018年6月3日 20時

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