流石。 ページ10
「A、こっちこっちー!」
優しげな顔で、優しげな格好で。
あいも変わらない彼が大きく私に向かって手を振っていた。
、、、ご察しの通り、私と真琴は遙たちの新人戦を見に来た。
たくさんの人、漂う熱気。
大きな会場は、まざまざとした緊張感のようなものがたくさん詰まってて。
もう自分に時間がたっぷりあるので見に来るのに抵抗はないとはいえ、何かとこういう試合のようなものになると感じてしまうものがある。
「懐かしいね、この感じ。」
『!、うん。』
一瞬私の心を読んだのかと思ったけれど、彼も私と同じで。
むしろ、私よりずっと深く感じることがあるはずだ。
それでも、
「楽しみだね、ハルと旭の泳ぎ!」
相変わらずの顔で、貴方がそう笑うから。
『そうね、どっちが勝つかしら。』
私もそう言って、口角を上げてみせた。
これからは、何が起こるのかわからない。
今までは結局、私は結果を知っていた。
私はどこかで自分の思い描くシナリオ通りに行くことを確信してて、決してそれを疑わなかった。
でも、本当に、私にとってはここから始まる。
一緒にドキドキして、喜んで。
できれば泣きたくないけれど、もし泣くことになっても彼らと同じ時間を共有できたらと思う。
『、、、というか真琴くん。』
「ん?」
真琴くん、、、?と頭の上にはてなを飛ばす彼に率直な疑問をぶつけてみる。
『試合開始時間目前だけど、会場外でこんなのんびりしてていいの?』
「え?、、、ああぁー?!」
なんで教えてくれないのAー!と言いつつも私の腕を掴んで走り出す彼に声を上げて笑う。
、、、そしたらまた軽く怒られたけど。
「真琴、Aちゃん、こっちこっちー!」
鴫野くん、あぁもういいや貴澄くんで。
彼の元へ駆け寄ってプールを見れば、すでにスタンバイする2人が。
『はるか、』
「頑張れ、2人とも、、、!」
手に汗握る。
結果がわからないことがこんなに不安だとは。
椎名くんがどれだけ速いか知らないけど、それでも、私の中の1番は彼で、彼の永遠のライバルは、
ーtake your marksー
不意に頭に入った音にはっ、とした。
軽快な音とともにレースが始まる。
始まれば、飛び出した2人を追うことに必死になった。
綺麗で、速くて、強くて。
私が結局1番憧れたのは彼だった。
「ハル!」
『うん、流石だね。』
キラキラ水しぶきを飛ばす彼らに惜しみない拍手を送った。
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作者名:ヒヨコ | 作成日時:2018年12月20日 10時