及川先輩の命令:素直になりなよ

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「なんかね、藤原ちゃんの足が気になってさ」


「そうだったんですか…」


あんな些細なことで、動きで、分かるものなのだろうか。


セッターと主将という立場からか、きっと人の状態を感じ取ることに長けているのだろう。


「あの、及川先輩」


「ん？なに？」


「…あー、やっぱりいいです。すみません」


「えーっなにそれー」


なんで、そんなに歩く速度遅くて歩幅、狭いんですか？


多分私が考えてる理由であってる。


私の足に負担がかからないようにするため。


ー…なんか私、この人の距離感好きだ。


物理的なのじゃなくて、心の距離。


踏み込んで欲しくないところとか、聞かないで欲しいところとか。


全部知っていて、問い詰めるのをやめてくれる。


聞く必要がないっていうのも分かってる。


及川先輩、なんか想像以上にすごい人だなぁ。


じっと、外灯に照らされている及川先輩の横顔を見る。


端整な顔立ち、人間関係の築き方、女の子よ扱い、バレーの技術。


本当にこんな人、いるんだ。


「…ん？何見つめてんの？あ、俺に見惚れちゃった？」


「なんでそうなるんですか」


少し幼く笑った先輩に、私も笑ってツッコミをいれる。


小さな笑い声が、細い路地に微かに響いた。

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