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「ところでゲトウさん。 どうして貴方は私のことを名前で呼ぶんですか? フルネーム、ご存知のようですが」


私はそれがずっと気になっていた。親しくもなければ、今日初めて出会った相手だと言うのに、昔の知り合いのように名前を呼ばれ、気楽に話しかけられても反応に困ってしまう。

嫌味ったらしく遠回しに『名前で呼ぶな』不満を零せば、彼は目を丸くすると、急にクスクスと笑い始めた。何がおかしいのかと呆れた表情で見つめていれば、私の顔を見て彼は更に声を上げる。

……なんて失礼なやつなんだろうか、この男。

心の溜まっていくのは彼に対する嫌悪感で、話すだけ時間の無駄かと踵を返せば、『待って』力強い手が私の足をまた引き留めた。


「突然笑ってすまない、キミを不愉快にさせるつもりじゃなかったんだ。 ……ただ、その懐かしくて、ね」

「ノスタルジックな気持ちになるのはゲトウさんの自由なのでとやかく言うつもりはありませんが、タイミングがあまりにも悪いのではないですか?」

「はは、厳しいな。 ……うん、そうだね、キミの言う通りだ。 __あのさ、キミは前世とか信じるかい?」

「はい?」

私は彼の言葉に思わず眉を顰める。屈強な男であろう彼からは想像できないような言葉が飛び出してきたからだ。まさかとは思うが、スピリチュアル的な話でも持ち出すつもりなのか。

「前世だよ、前世。 実は」

「宗教勧誘は全てお断りしています。ではゲトウさん、お疲れ様でした」


私は今度こそ、彼から離れるように早足で退散する。こんな時に自転車に乗ってこなかった事が悔やまれるが、無いものは無いのだから仕方がない。

初対面の人間に自分の存在を知っているかと尋ねてきたり、やたら私の連絡先を知りたがったりしていた意味がまさかの宗教勧誘だったとは……私も、彼を取り巻く金の餌食になったかもしれない未来を想像すると背筋が震えた。


*


「ハハッ、宗教勧誘って。へえ、それで? 逃げきれたんだ?」

「笑い事じゃないよ硝子。ゲトウさん、噂とは全く別の色々な意味で怪しい人だから気をつけてね」


笑いながら『宗教勧誘ねぇ?』と言葉を零すのは、友人である家入硝子。硝子は高校からの友人で、喫煙、飲酒、万年寝不足状態の身体が心配になる子だ。
昨日あった本当にあった怖い話は、信じていないのか笑うばかり。


「本当に怖かったんだから、ゲトウさん」

「私がどうかしたかな?」


噂をすればなんとやら。という言葉は宛にならないと思っていたのに。背後から聞こえてきた声は、紛れもない私が今口にした人物の名前で。恐る恐る振り返れば、笑顔の彼が『やあ』片手を上げて立っていた。


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設定タグ:呪術廻戦 , 現パロ , 夏油傑   
作品ジャンル:恋愛
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作成日時:2023年10月4日 16時

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