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「夏油くん何処に行くの?」
「原宿だよ」
前世で原宿に足を運んだのは、高専を辞めた後__美々子と菜々子とクレープを買いに行った時。それ以外で付近に寄る事はあっても基本は任務、私情で来ることは結局なかった。
目的地を告げると、慣れた手つきで定期にチャージするAの後ろ姿に、不意に昔の記憶が脳裏を過ぎる。
*
『傑〜これ通れねぇんだけど。跨いでいいのか?』
『げとう。五条ならまだしも、私まで通行止め食らった。何故』
電車に乗ったことの無い二名と任務を言い渡された際、通勤の時間に改札前で立ち止まり呼び止める。私と硝子の何を見ていたのか、切符すら買わずに無理やり通ろうとする姿に呆れてため息が零れた。
『は〜い、夏油に本指名入りました〜』
『硝子。辞めてくれ』
硝子はカメラマンのつもりなのか私たちからは距離を置き携帯を片手に構えて笑うばかり。
『傑くぅ〜ん。さと子、分からないんだけど』
『悟も悪ノリするの辞めてくれ』
『ごじょう…………キッツ』
『ンだと毛玉!』
挙句、改札手前で睨み合いの喧嘩を始める二人に、駅員が飛んできてしまい、適当に誤魔化して事なきを得た。結局私が改札の外に出て切符の買い方を教え、電車の乗り方やらマナーやらも一通り教え……散々な一日だった。
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「……夏油くん? 電車来ちゃうよ?」
私は余程思い詰めた表情でもしていたのか、不安げな表情で私を見つめるAに、なんでもないよと伝えるも、私の事が心配なのか『でも……』食い下がらない彼女の様子にほんの少し悪戯心が芽生えて。
「見破られたのなら仕方がないな、実はどうも調子が良くなくてね」
すれば、途端に『やっぱり!』と口にせずとも感情を露わにするAの様子が面白おかしくて笑いそうになるのを噛み殺しながら『解決する方法は知っているんだ』と言葉を続ける。
私の猿芝居だとも気づかず、大丈夫? 病院行く? 心配の声を掛けるAに逆に心配になってくる。前世では心を開いた人間にしか興味も関心もなかったというのに友人にも満たない知人にまで気配りするなんて。
「それは至って簡単で、シンプルな事なんだ」
__それでも、
「横になる、とか?」
「違うよ。それは望めばそういうことになっても私は構わないけど……キミからのキスさえ貰えれば、治るんだよね」
私は私の唇を指しながら『ダメ?』可愛らしく首を傾げる事も忘れずに告げれば、彼女の目が見る見る道端のゴミに向ける目付きへと変わっていく。
「……夏油くん。私、女誑しは嫌いです」
__しまった、失敗した
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時