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唖然。私は言葉を失った。
私と目線を合わせるように少し屈んだゴジョウさんのサングラスから外れた碧色のビー玉が私の姿を反射させる。
「傑ほどじゃあ、ないけどな。よーく知ってる。だから初対面でも名前知ってたんだろうが。違和感とか無かったのかよ」
長い脚は一気に私との距離を詰めて顔を覗き込まれ、逃げるように彼から顔を逸らす。
「違和感……は、それは勿論ありましたけど……」
「けど、なんだよ。勿体ぶんなよ」
ないと言えば嘘になる。けれどその時の私は、名前を呼ばれたことよりも先に違うことに意識を囚われていたのもあり、記憶から抜け落ちていた。
「ゴジョウさんの顔が綺麗だなって……そっちに気が向いていたので」
「はあっ?!?!……ばッ、」
私は包み隠さず正直にあの時と同じ感想を告げれば、絹のようなゴジョウさんの白い肌はみるみる朱色に染まっていく。
ガシガシと乱雑に頭を搔くゴジョウさんは『あー』だとか『なんなんだよ』だとか、ボソボソと何かボヤいている。
「A?! 悟の顔が綺麗だって?! 確かに異性の私から観ても綺麗だとは思うけど……キミがそん…………悟、外で話そうか」
そんな中、突如派手な音を立てて椅子から立ち上がった夏油くんがゴジョウさんの肩を掴み、『またあとでね』と明るいのは口先と作られた表情だけ浮かべて『離せよ!』暴れて大きな声を出すゴジョウさんの首根っこを掴み外へ。
丁度そのタイミングで予鈴が鳴り、慌てて私が扉の外を覗いても既に二人の姿はそこにはなくて。
__嵐のように去ってったな……
夏油くんはいい意味でも悪い意味でも目立つ人間だから、なるだけ手短に会話は終わらせたいのに。夏油くんが悪い人ではないのは分かったけれど、彼と親しくなった先に向けられる感情を思うと、やはり苦手だ。
夏油くんだけでなくゴジョウさんまで前世の記憶があるとは……思いもよらない事実に頭痛のタネがまた一つ。
***
「なんで私よりも悟の方が彼女に好かれているんだい? それに顔を褒められた位で……いつも褒められても赤面なんてしない癖に」
「うるっせーな!! 俺だってお世辞じゃなくて本心で言われたら照れるっつーの!!」
「それに悟。キミはAと距離が近すぎるんじゃないか? まだ会って数回程度なのに馴れ馴れし過ぎるよ」
折角Aと話をしていたのに、とんだお邪魔虫め。噛み締めた奥歯がギリリと嫌な音を立てた。
AもAだ。私が近づくと怯えるのに、悟が近づいたら照れた表情を浮かべるなんて……。幾ら前世のことを覚えていないとは言え、あからさまな態度の違いにチクリと心臓に針が突き刺さった。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時